いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~

そして数秒と経たないうちに、ベッド脇に隠れていた例の男性の二の腕をつまみ上げ、強引に部屋の中央へと引っ張り出した。


「悦さん、探しましたよ!こんなトコで何サボってんすか。9時半までには貴賓室に来るよう伝えてあったでしょう!?」

「えー。だって貴賓室ってどこかよくわかんないしさー。昨日遅かったからあんま眠れてねぇのよ俺。だから時間になる前にちょっとだけ仮眠させてもらおうと思ってさ」

「何そんな堂々とバレる嘘ついてんすか。アンタはここの卒業生でしょうが……。
しかも学生でもない身分の人間が校医不在の保健室のベッドを無断使用するとか聞いたことないっすよ……」


後からやってきた幾分か年若そうな青年は、大層呆れたような顔をして向かいの彼を見やり、再び深いため息を吐く。


「使ったらいけないとも聞いたことないけど」

「そういうのは屁理屈って言うんすよ……。とにかく急いでください。もう洸さんですら着いてんすよ。あの洸さんに後れを取るとかマジやばいっすよ、悦さん……」

「マジか。それはやべえ」


ヤバさの判断基準が全く理解できなかったが、二人には何かしらの通じ合うものがあるらしく「そうでしょ?」「さすがにな」なんて当然のごとく話を続けている。


「ってなわけでオジョーサン。悪いんだけど俺ら行くわ」

「あ、はい。お、お気をつけて……?」


そこで話がまとまったらしく(?)ふいに私へと視線を投げた例の恩人さんが、再びさらりと声をかけてきたので、私も反射的にそう返す。


「あーっ!ごめんなさいごめんなさい。オレの勝手な予想っすけど、どうせ悦さんが何か生徒さんに迷惑とかかけたんじゃないっすか?本当すみません、この人いつもこうで……。基本、自分本位で気分屋なマイペースだし、周りの人間のことなんてマジでなんっっっにも考えてないんすよ」


それを傍で聞いていた若い彼が、両手を顔の前に合わせて、申し訳なさそうにペコペコと何度も頭を下げて来た。

ちなみに若いとは言っても学生ではなさそうな感じだし、私よりは年上だとは思うのだけど。

「おい遼太郎、抜かせ。俺がいつ他人に迷惑かけたんだよ」

「ええ!?もしかしてそれ無自覚なんすか!?ちょっ悦さん……さすがに冗談キツイっすよ……」


二人のそんな掛け合いが可笑しくて、思わず小さく声が漏れる。

距離が近いのは言わずもがななんだけど、どこかそれだけではないような、お互いを強く信頼し合っている絆のようなものを感じる気がする。


この人たち、本当に一体誰なんだろう……?

“貴賓室”とか言ってたし、学校側から正式に要人として歓迎を受けている実はスゴイ人たちってことなのかな……?


その答えを知ることも叶わないうちにそそくさと去って行く、言葉通りにマイペースな長身の彼を追って、若い彼は私に何度も会釈をしながら慌ただしく部屋から出て行った。

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