いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
なんて、顔を青くする私の耳に――
ピンポンパンポーン~♪
あまり馴染みのないポップな放送音がこだまし、校内は一層騒がしくなった。
《あー、テステス。聞こえますかー?
ハイ!東蘭高校の皆さん、どーもコンニチハ。突然ですが、只今皆さんの学校の放送室をジャックしてます》
よく通る一本のその美声がスピーカー越しに流れ、辺りから一斉に黄色い悲鳴が沸き起こる。
皆、すぐにわかったのだろう。その声の持ち主が、一体誰なのかを。
「うおう……。噂をすればってやつだなー」
「これが、例の……?」
「ああ。クロクロボーカルの――」
エレナが私にその名前を答えかけた時、それに重なるように――
《ハーイ、犯人は誰かって?ああ、言うまでもなくわかってんだろ?お前らの期待してるその通りだよ!日本を代表する超人気ロックバンド、cropped clock's、天性のボーカリスト・雨宮洸とはこの俺様のことだ!》
そのご本人様が丁寧に自己紹介してくださった。
しかも自分で自分のことを“日本を代表する超人気ロックバンド”とか“天性のボーカリスト”とか色々言ってる。
生徒たちの反応を見るに、その人気は確かに本物なんだろうけど……、結構な自信家なんだな、この人。
そうやって冷静に分析を試みる私とは裏腹に、周囲の生徒たちの中にはすでに失神寸前でふらついている女の子だっていて、それだけこの人たちが凄い人だったということが身に染みて実感させられる。むしろ、そっちの事実のほうがハラハラする。
《ねぇちょっと。そんなクソダセー自己PRをバンド名義でやるのやめてくんない。可愛い後輩たちに俺まで同類だと思われる》
《ああ?なんだよ悦。俺様と同類だと不満だっつーのか?》
《ちょ、こんな所で取っ組み合いはやめてくださいよお二人とも!あと洸さん、さすがに一高校の校内放送で“俺様”発言はかなりイタいっす!》
《んだとテメー遼太郎!お前ってヤツはいつもいつもドサクソに紛れて生意気な口を――》
《それを言うなら“どさくさ”な》
と、いつの間にやらあらぬ方向へ飛び火していくめちゃくちゃな放送に、生徒たちも名物だとでも言わんばかりにクスクスと微笑ましそうに笑い合っている。
《ああーっすみません、失礼しました!あ、改めまして、オレ、ドラムの辻遼太郎です!皆さん1限目の授業お疲れ様でした!えーと、実は今オレたちとある事情で東蘭さんにお邪魔してまして~。本当はこのまま帰るつもりだったんすけど、理事長先生がどうしてもということで!お昼休みにアリーナ使って1,2曲だけ!簡単なワンマンライブやらせていただくことになりましたー♪》
背後ではまだ何やら騒がしそうな言い合いの声が響く中、一番年下のメンバーである遼太郎さんがどうにか話を本筋に戻す。
その発表を聞いた全校生徒から、一瞬にして盛大な歓声が沸き上がった。
2年生のフロアだけにとどまらず、他の階や校舎からもワーワーとどよめきが上がっている。