いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
episode.10~理事長の思惑~
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「……んで、ここにアンタがいるんだよ。――兄貴!」
この世の豪華絢爛を形にしたような――、というほどでもなく、英国風アンティークで統一された、木目の美しい机や本棚に、思いのほか癒し効果すらありそうな理事長室。
東蘭高校の校舎からはものすごい最新技術とつぎ込まれたお金のにおいがプンプンするけれど、それに比べるとここは至って……普通というのも違う気がするが、まだ私たち庶民の常識の範囲内とも言える雰囲気にちょっと安心する。
そういえば、聖さんの書斎も、もう少しモダンさがあったものの、こういう落ち着いた色合いの家具で揃えられていた気がするし、やはり兄弟はそういった好みの系統なんてのが似る傾向にあるのだろうか。
そう一瞬考えたけれど、今私が最も身近にいるはずのその“兄弟”に目を向けると、その仮説は呆気なく反証されてしまいかねず、私は人知れずに苦笑した――のもつかの間。
私たちが理事長室に到着してすぐのことだ。
想定していなかった人物がすでにこの場に待ち構えていたことにより、それを知ったエレナが今こうして激高している。
「えー?そりゃあだってボクー、今期イベント実行委員の委員長サマだしぃ?そりゃイベント実行委員の子たちが呼ばれてるんだからその上に立つ俺が呼ばれないってのはおかしな話でしょー?エーレナちゃん?」
そんな興奮する妹を余所に、変わらず飄々と油断ならない笑みを浮かべて返す彼女の兄――櫂先輩は、なぜだかいつにも増して機嫌が良いみたい。
「櫂、エレナ、やめないか。クロックロクロックスさんの前なんだぞ。少しは自重しなさい」
「それはごもっともなんどけどさー、親父殿?クロックロクロックスさんじゃなくて、クロップドクロックスさんね~」
「……!こ、これは失礼。クロップロクロックチュ……クロックド……」
「もう諦めようか、ダッド」
結局そこで前に出て来たこの学校のトップ――桃園慧二理事長が息子と娘の間に割って入るものの、肝心なところで言葉を噛んでしまい、敢え無く息子にカバーされる。
転入前のパンフレットでその姿の写真を目にして以降、始業式での挨拶くらいしかちゃんとお声を聞く機会がなかったから、こうして直接対面して顔を合わせるのはこれが初めてだった。
高くて通った美しい鼻筋と、一見優しそうだけど芯はしっかりしてそうな目元。
聖さんの弟にして、エレナや櫂先輩の実父でもある、東蘭の最高責任者様のご登場に、私は少なからず緊張を隠せずにそこにいた。
そんな強張った私に気が付いたある人物が、予想外にふと声を出す。