いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~

「――あ」


応接間のソファ背後の壁にもたれていたその人は、私の姿を見るや目線をこちらへ向けて一言声を漏らす。


「さっきのオジョーサンじゃん。1人だけジャージでどうした。さすがに俺、キミの着替えまでは手伝ってやれないよ?」

「あ、はい。結構です」


先ほどエレナに見せてもらったスマホの画面に映っていた彼が、今目の前にいる。

この事実がすでにとんでもないが、それよりもこの妙な空気を全く意に介さず、あっけらかんと話しかけてきた堂々たるマイペースぶりにやっぱりこの人、只者じゃない。


「あ?さっきだと?おい悦、そりゃ一体どういう意味――って、その横にいんの、亜白か?」


すると今度は、ソファの真ん中に遠慮のない態度で腰かけていた別の人物――公式サイトのメンバー紹介ページで一番最初に掲載されていたボーカルの雨宮洸が、私の隣、の半歩下がった位置でどこか気まずそうな表情を浮かべる白亜に気付き、声をかけた。

彼の呼ぶ名、“亜白”は、白亜の芸名――“神木亜白”の下の名前である。


「おい亜白テメー、俺たちに直接ライブチケット手配させる割りに全然会場でお前の顔みねーんだがどうなっている?」

「いやいやまさか。ちゃんと行ってますよ。こっそり行ってこっそり帰ってます」

「……。ところで、お前とえらく顔の似たイケメンがいるじゃねーか?」


白亜の明らかに怪しげな営業スマイルを怪訝な顔で見やる雨宮さんは、そのまま私のすぐ近くて息を殺すように立っていた弟――黒芭くんの存在に気付き、ニヤリとほくそ笑む。


「あー、そういや、お前自身を見た憶えはねぇけど、お前とうり二つの黒髪の野郎ならよく見かけたかもなぁ?なぁ、悦?」

「んあ、そうだっけ。てかこれ結局何の集まりだったの?理事長、用件なに?」

「……っ」


唐突に話を振られた悦さんは、あまり興味もなさそうにその話を適当にあしらってから、本題の進まない理事長に視線を投げる。

一瞬、彼らの話題に上がりかけた当の黒芭くんはというと、わずかに動揺しかけたような気配を感じたものの、すぐに平静を取り戻してまた、目線を地に落とした。

< 109 / 129 >

この作品をシェア

pagetop