いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
「仕方ないから、僕の秘密の隠れ家、教えてあげる」
「隠れ家って……家ではないような」
「うるさいな。言葉のあやでしょ!」
私もここまで足を踏み入れたことはなかったのだけど、中庭のさらに奥には小さくてほんの僅かなトンネルがあって、それを潜った先には、コンパクトサイズの噴水と、可愛らしいベンチが1つ設置された庭園が広がっていた。
温室のようなその空間には、誰かがお世話をしているのか、豊かな緑の木々や花々が咲き乱れ、ちょっとした植物園を訪れたような気分になった。
「すごい。中庭の奥ってこんな風になってたんだ。知らなかった……」
「まあね。園芸部の生徒しかあんまり立ち入らないし」
「そうなんだ。って、琉唯くんって園芸部だったの?」
少し暖かくて静かな空間に心を満たされて、いつの間にか溢れていた涙が引っ込んでいた。
それでもまだ目元は真っ赤だとは思うけど……、琉唯くんもそこには触れずに、ただ噴水横のベンチに黙って腰かける。
「ま、一応。っていっても、園芸部なんてあってないようなものだけど。3年の先輩が数名と、顧問の先生が1人。2年生はいなくて、1年も僕が唯一の部活生だし」
「ええ!?それってもはや……」
“廃部の危機では――”
そう言いかけたが、さすがに失礼だと寸でのところで言葉を濁す。
「そう。いつ廃部になってもおかしくないけど、まあ園芸部なんて結局は学校にある植物の観察とか世話をボランティアでやってるだけのようなもんだし。元々顧問の先生がひとりでやってたのを3年の先輩が手伝い始めてできた部活なんだよ」
「そうだったんだ……」
私が発言を躊躇った“廃部”という言葉をあっさりと口にして、それまでと変わらない表情と口調のまま琉唯くんは続ける。
「それに僕も別に初めから園芸部に入りたくて入ったわけじゃないし。部活動推奨で担任からしつこく言われて仕方なく……ってまあ、それはどうでもいいか」
やっぱり今日の琉唯くんは前までとどこか違って、随分と私に優しい気がする。
私が急に泣き出したから気を遣わせているのかな。本当に、年下の男の子の前で泣きじゃくるなんて、みっともないったらない。
「……。ほら、一応?アンタに拾ってもらわなかったら面倒なヤツらに拾われて、下手したら返ってこなかったかもしれないし」
「え?」
「生徒手帳。今僕が持っている物の中で、一番大切、だから」
私の憂いを感じ取ったのか、若干居心地の悪そうな顔をして目線を逸らしそう話す琉唯くん。
私はすぐにその意味が理解できずに、何も言葉を返せず、ただ彼に視線を預けた。