いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
琉唯くんがいなくなると、黒芭くんは無表情のまま自転車を押して私を追い越し、通り過ぎて行く。
しばらくその背中を黙って眺めていると、校門の直前で彼はふいに立ち止まり、軽く振り向いて億劫そうに横顔で目を合わせた。
「帰るんじゃねーの?ボーっとしてんな」
「え?あ、うん……」
白亜くんが言っていた“私を置いて行かないための契約”とやらが脳裏によぎる。
それを律儀に守っているのか、確かに黒芭くんは嫌々ながらも私をひとりにすることなく、ただそこで私の合流を待ってくれていた。
下校中の生徒たちの視線が突き刺さるのを感じる中、気にしない素振りをして彼の元へ駆け寄った。
私がすぐ傍までやって来ると、彼は自転車に跨り、右足をペダルに掛ける。
「え?ちょっと……!」
結局、置いて行かれるのかと咄嗟に黒芭くんの制服の袖を掴むと、彼は表情を変えないまま振り返り、一言、
「早くして」
そう声に出して、何やら自分の背中のほうを顎で指し示した。
“後ろに乗れ”と言っている……のだと思うけれど。
イマイチ真意を汲みかねている私を、彼は呆れたように見つめて短くため息を吐く。
「俺のチャリ、走って追いかけんの?家まで40分くらいかかるけど」
「……!追いかけません!」
相変わらず愛想の欠片もない冷え切った声でそう口にする黒芭くんの機嫌をこれ以上損ねまいと、慌てて自転車の荷台に跨る。
「……。普通は横に乗るだろ」
「え!?あ、ごめん!」
それを見ていた彼の顔がまた険しくなった。
確かに下手したらスカートが捲れ上がってヒヤヒヤしそうだし、言われてみれば、荷台に跨って乗っている女の子はあまり見たことがない。
私は羞恥心を隠しながらそそくさとそこから降り、平静を装って横向きに座り直す。
「……重い。今すぐ痩せるか降りろ」
「え!無理!じゃあ私が漕ぐから黒芭くんが後ろに乗る?」
「なんでだよ」
そんな憎まれ口を叩きながらも、彼が漕ぐ自転車の速度はグングンと上がっていく。後ろに私を乗せているとは思えないほどに軽快だ。
そうして帰り道の緩やかな坂を上り切ると、頬をかすめる心地よい風になびかれて、彼の美しい黒髪がさらさらと揺れた。