いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
その後、懸命な治療の甲斐もあり、子猫はなんとか一命をとりとめた。
しばらくは入院となったため、私たちは必要な書類を記入してから動物病院を後にする。
「黒芭くん、今日の治療費、立て替えてくれてありがとう。家に帰ったらお金返すね」
「別にいい。それより、あの猫、うちでは飼えねーからな」
「わ、わかってるよ……」
再び自転車の荷台に揺られながら、そんな会話を交わして帰路に就く。
40分で帰り着くはずの道のりが、家に着く頃には随分と日が落ち、空にはオレンジ色の夕日が射していた。
黒芭くんの姿を捉えて、家の敷地内に張り巡らされたセキュリティが解除される。
門扉とオートロックの玄関のドアが解錠された音がして、私は先を行く彼に続いて中に入った。
「なーちゃん!クロ!おかえりなさーい!!遅かったのねえ!」
「凛々子さん、ただいま、です」
家に入るやいな、エプロン姿の凛々子さんがオタマを片手に玄関まで駆け込んできて、盛大な笑顔で私たちを出迎えてくれた。
それをスルーして、そそくさと2階へ上がって行く黒芭くんに、凛々子さんは「まずは手洗いうがいしなさーい!」なんて、小学生の子供に向けるようなお小言を叫んでいる。
「あらあら?シロは一緒じゃなかったのぉ?」
「白亜くんは学校の後に用事があったみたいで……」
「そうなの?もしかしてアルバイトかしら?今日ご飯いらないなんて聞いてないんだけど~」
困ったように腰に手をやって唇を尖らせる凛々子さんのその言葉に思わず首を傾げる。
「白亜くんってアルバイトしてるんですか?」
「ええ、そうよー?若いうちから社会経験をしっかり積んで、欲しいものは自分の力で手に入れるっていうのが、神代家の教えですからね♪」
実業家として会社経営をしているという聖さんらしく、神代家はこれだけ裕福な暮らしぶりの割りに、教育方針は厳しめだ。
私はそれとなく相槌を打ってから凛々子さんに一声かけると、着替えるべく自分の部屋へ向かった。