いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
「さっちゃーん!」
せっせと引越しの荷物を運び込む女性に気が付き、隣を歩くユキさんが彼女の名を呼んで声をかける。
「あ、ユキちゃーん!いらっしゃーい」
ユキさんの知人だというその女性は、すぐに手を繋いで歩く俺の存在に気付き、手伝いに来ていた男性に荷物を手渡すと、駆け足でこちらに近付いて来た。
「キミが黒芭くんね?今日はお見送りありがとう。そしてその子が、噂のマニラちゃんね?」
「う、うん……」
「やーん、黒芭くんもマニラちゃんも可愛い~♪」
女性は俺とマニラを交互に見つめて、頬に手を当てながら嬉しそうに微笑んでいた。
その後しばらく会話し、マニラの健康状態の最終チェックまで一通り済むと、俺は残りの手伝いを始めたユキさんから離れて、出発までのしばらくの間、二人の邪魔にならないよう玄関先に座り、その時を待っていた。
「さてと、それじゃあそろそろ行くかな」
里親の女性が全ての準備を終えて、ユキさんとともに部屋から出て来る。
いよいよ、覚悟していた別れの時が近付いていた。
今日は絶対に泣かないと決めた。マニラを笑顔で送ろうと、そう覚悟を決めてここまで来た。
だけど――
無機質な猫キャリーの中で、ただ俺をじっと見つめ続けるマニアを見て、揺らいでしまったんだ。
最後にどうしてもマニラに触れたくて、俺は二人にバレないようにそっとロックを外して、彼女に手を伸ばしてしまった。