いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
「――ミャァ」
「……マニ、ラ…………!?」
保育所の後、母親に連れられ、白亜とともに買い物に行った帰りだった。
食材を冷蔵庫に詰める母親から離れて、俺がひとり庭に出ると、それを背後で見ていた白亜がなぜか俺について来て、こう言った。
「あれ、猫じゃない?」
「え――」
いつも通り抑揚のない声で話す彼が、家の外の交差点を気ままに歩く一匹の猫の姿を指差したのだ。
見間違えるはずもなかった。
少しだけ痩せてしまった、まだ小さなキジトラの猫が、交差点の向こう側から、俺の家を――俺を見て、こちらへ向かって歩いて来ているのだから。
「マニラ――!!」
そして俺はまた安全確認を怠って、脇目も振らずに駆け出した。
無我夢中で道路に飛び出し――飛び出そうとしてしまったんだ。
「ニャーーー!!!」
その瞬間、これまで聞いたこともないような、強くはっきりと意思の感じる声で、彼女はひと際大きく鳴いた。
俺がその声に思わず足を止めると、間一髪のところで、目の前を中型の自家用車が走り去る。
「――!!」
嫌な音がした。
耳を塞ぎたくなる音だった。
まだ5歳だった小さな俺の心に、一つのトラウマとして消えない映像を植え付けるには十分な、そんな音だった。
「黒芭」
「……白亜、助けて……。ねえ、助けてよ……。マニラが……マニラが……」
地面に膝をついた俺の目線の先で、一匹の猫が、ピクリとも動かずに変わり果てた姿で倒れている。
ようやく、こうして会えたのに。
ずっと、ずっと捜していたのに――
俺はどんよりと空を覆った雨雲から降り始めた冷たい雨に身を打たれながら、
「うわあああああああ――」
声にならない声で叫んでいた。
――マニラはもう、息をしていなかった。