いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
あれから10年近くが経ったけど、櫂の気まぐれぶりは今も健在だ。
今回の留年にしても、元々は高2の後期3か月間だけを期限とした短期留学の予定だったそうだが、結局彼は帰国せず、その後も学校に断りなく1年以上長期滞在を続けていたらしい。
2年から3年への進級は何とかなったものの、その後1年間も出席日数がゼロとあっては、留年を言い渡されても文句は言えない。
何を考えているのか、はたまた何も考えていないのか、この僕ですらこの男の心情はよくわからない。
いや、櫂に限って、何も考えていないなんてことは、有り得ないんだろうけど……。
「なあ、シロ」
「?」
「お前さ、“cropped clock’s”っていうロックバンド、知ってる?」
そうして突然口を開いたかと思えば、またも突拍子の無いことを言い始める彼に、僕は惜しげもなく表情を歪ませた。
「そりゃあ……知ってるけど。それが?」
「確か、アレだよな~?クロが、ベースのメンバーのファンなんだっけ?」
「そう。だからついこの間、彼らのライブチケットをクロとの“ある取引”の報酬として手配したくらいだよ」
cropped clock’s――通称、クロクロ。
ボーカル兼ギターの雨宮洸
ベースの新堂悦
ドラムの辻遼太郎
この3人から成る、今話題の3人組ロックバンド。
ここ数年で急激に売れ始め、最近のライブチケットは即日完売で入手困難を極める、注目の人気アーティストだ。
僕はモデルの仕事の伝手もあり、そのチケットを運良く入手することができたため、先日それを餌にして黒芭と例の契約を交わしたのが記憶に新しい。