いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
家はボロ屋だったけれど、母はそれなりに人間らしい暮らしを送るだけの収入は得ていたはずだった。
なぜなら、僕が稼いでいたからだ。
1歳半くらいだったらしい。
偶然広告で見かけたとかいうベビーモデルに応募されて、僕はその頃から簡単な芸能活動を行うようになっていた。
と言っても、デビュー当時の記憶はさすがに無いに等しいし、よく憶えてすらいないけれど、自我が芽生え始めた3~4歳頃には色々な大人に囲まれてあれこれと指示を受ける生活にも慣れてきて、見る影もなく堕落していく母の代わりに、僕は自ずと社会性を身に着けて行く。
「いい?ハクアくん。もし何か怖いことがあったり、悪い人に追いかけられたり、危険な状況に陥った時には、迷わず110番通報をするのよ?ここのボタンを押して、こうして――」
「ヒャクトーバンツウホウってなに?」
「イチ・イチ・ゼロを、電話でコールするの。そうしたら、警察の人が電話に出てくれて、助けに来てくれるからね」
僕の母親が精神的に不安定な人間であることは芸能事務所の人たちも知っていたため、まだ小さかった僕に、マネージャーはありとあらゆる“生きる術”を教えてくれた。
“110番通報”の話を聞いたのもその頃だ。
「怖い人……そんな変な人、普通いるかなあ?」
「110番通報をするのは、外で怖い人があなたに悪いことをする時だけを指しているわけではないの。
例えば、お家であなたのお母さんに危険が迫った時とか……お母さん自身に、あなたがひどい目に遭わされた時とかも含まれるの」
マネージャーの言っている意味は何となく理解できたけれど、それほどピンときてはいなかったかもしれない。
その場では、「ふうん」なんて無関心に答えたけど、その状況があまりにもイメージできなくて、当時の僕にはよくわからなかったからだ。