いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
でも、父さんって持って来るおもちゃのセンスが本当にもう、壊滅的になくて。
ややこしい知恵の輪とか、難解なナンプレとか。ほとんど初めて会う息子に贈る最初のプレゼントが年齢に見合わない高難易度な知育玩具じみたおもちゃばっかりで。この人は僕に一体何をさせたいのだろうと、子供ながらに本気で頭を悩ませたりした。
入院中、何度も僕の片割れとかいうもう一人の息子の話――黒芭の話を聞かされていたけど、果たして本当に僕と同じ年ごろの息子を持つ父親なのだろうかと耳を疑ったよね。
なんて柄にもなく当時の思い出に浸りながら歩いていた、少し無防備な僕の元に――
「――ねえ。クーは先に帰ったの?」
唐突にそんな声が降って来て、僕の意識は空想から現実へと急速に引き戻される。
気付けば僕は、2年A組の教室の目前まで戻って来てしまっていた。
「琉唯か。うん。クロは今日バイトらしいから」
「ふーん。それは仕方ないか」
廊下の壁に背を預けてこちらを見ていた小柄な青年――琉唯は、僕から目線を逸らし、重心を両足に戻してその場に立ち上がる。
「何か用だった?」
「……相変わらず、嘘くさい笑顔」
なるべく口角を上げて愛想良くそう声をかけたつもりだったが、生憎彼にはお気に召されなかったらしい。
僕はそれ自体にはさして頓着せずに、そのまま彼との距離を詰めていく。
「伝言があるなら、僕が預かろうか?」
「あの女――なんだっけ、咲田なんとかってヤツ」
「なーちゃん?」
「そう、そいつ。アレって一体なんなの?噂じゃ遠い親戚とか聞いたけど、どうせそういうのじゃないんでしょ?アンタら全っ然似てないし」
似てないからこそ“遠い”親戚なんだけどな、内心そうは思ったが、あえて言葉にはせずに彼の言葉に耳を傾ける。
まあ、その読み自体は間違ってはないしね。
「なんかたまに見ると僕よりもクーに近かったりすることあるし、前なんかクー自ら家に連れ帰るとか意味わかんないこと言ってたし。僕、あの女のことがすごく嫌いなんだけど、どうにかならない?それに何だか、無駄にお節介焼きっぽいし」
すごく嫌い、にお節介焼き、ねえ。
心の中で彼の言葉を復唱し、散々な言われようだなと、顔には出さない程度に軽く苦笑する。
ま、“好き”の反対は“無関心”ともいうけどね。
「なんとかしろって言われたって。なーちゃんの一件に関しては、僕たち兄弟のあずかり知るところじゃないからね」
僕はそのまま背を向けて、ドアが開いたままの教室に足を踏み入れる。
「アンタってさ。僕と似たような境遇なんでしょ?親関係で、苦労してる」
「……」
「まあ僕のほうが、絶対しんどかったはずだけど!」
窓の鍵をひとつずつロックしながら、背中にかかる琉唯の発言を黙って聞いていた。
そういえば、この子はこの子でそれなりに苦労して生きてきてるんだっけ。
それとなく黒芭に聞いたことがあった気もするけど、僕自身はあまり他人の身の上話に興味がない。
窓の鍵を閉め終わり、中途半端に解かれたカーテンを縛って行く。
その間も、彼は何やらぶつぶつと独り言のような言葉を小さな声で呟いていたけど、僕は気付かない振りをして、着々と教室の戸締りを進めていた。