いじわる双子のお気に入り~ドタバタ☆甘キュンDAYS~
HIRAさんこと平河さんは、私がこの2日間例のアプリを通じてずっとやり取りを重ねていたあの女性だった。
彼女がお手伝い要員として所属しているという、保護猫団体キャットプラス――地域に住まう猫たちの暮らしと健康を第一に、帰る場所を失った猫ちゃんや怪我を負った猫ちゃんの保護を行うNPO法人だという。
森さんがすぐに待ち合わせ相手が保護猫団体の方だと気づいたのは、過去にも同様の事例が何件かあったからだそうだ。
「あおぞらさん、いつもお世話になってます」
「いいえー。今回の子はキャットプラスさんが一時引き取りしてくださるのかしら。キャットプラスさんなら活動歴も長いし、安心してお任せできるわね。きっと素敵な新しい家族を見つけてくださると思うわ」
平河さんの首にかけられた団体職員用のネームプレートを見て、森さんはにっこりと微笑む。
これだけ信頼されている団体なのだとしたら、この方にお任せするのは正解だったかもしれない。
「それでは、先生をお呼びしますね。お二人とも、しばらく掛けてお待ちください」
森さんはそう言うと、再び奥の部屋へ戻って行く。
私と平河さんは待合室のソファに隣り合って座り、簡単に自己紹介を交わした。
本来はああいったアプリを利用することはあまりなかったそうなのだが、私のように未成年の学生や飼育ができない人が善意で猫を助け、その後の引き取り先に困ってしまうケースは意外とよくあるらしい。
そういった若い人たちが利用することの多いSNSや投稿サイト等にも最近は目を通すようにしているらしく、今回私の投稿に気付いてくれたのもそういった経緯によるものだったそうだ。
平河さんから団体活動の詳細や保護猫の今後について色々と細かくお話を伺ううちに、この人になら――平河さんが所属する団体であれば、あの猫ちゃんに関する一切を安心してお願いすることができると私は確信を得た。
以降の管理者をキャットプラスさんに一任する形で、私は申し入れを受けることにした。
そうして二人で会話を弾ませながらやり取りをしていた頃だった。
カランカラン、とドアのベルが再びぶつかり合って誰かの来訪を知らせた。
「あ、黒芭くん。駐輪場は見つかった?」
「……ああ」
いつ見ても変わり映えのしない不愛想な顔で入ってきた彼に、平河さんも振り返り反射的に会釈する。
二人はしばし視線を交わらせ、そして。
「――その名前……もしかしてあなた、神代黒芭くん?」
私の隣に座る平河さんが、言葉に困惑をにじませた声で、向かいの彼にそう問うた。