余韻
ーーー寂しかった。いつから?それはもう、ずっと。恋人がいても、家族がいても、誰がいても、寂しかった。

散っていく桜の花びら。
花火が弾けたあとに訪れる、束の間の静けさ。
…散るのは紅葉だって雪だっていいかもしれない。
そのどれもが、寂しいという感情を湧き起こすから、すきではなかった。

だけれど、いつからだろう。あるときから傍らにあなたがいた。あなたはいつも私を抱きしめていた。幼い子にするみたいに、私の髪をすいて、撫でる。そして時折、額に口づけた。…まるで愛おしい、みたいに。
無口な私の傍らで、無言で、ときには鼻唄まじりに、ひたすらに。

桜も花火も、紅葉も雪もきらいだといつかあなたに言ったことがあった。あなたは、ふうんと言ってまた髪をすいた。でも次の日花見に連れて行かれた。きらいだと、言ったのに。…きらいだと、思っていたのに。桜の中で、あなたはやっぱり鼻唄まじりに私を抱きしめていた。私はあなたに寄りかかって、桜を見ていた。

思い出は少ない。思い出すことも今では減ってきた。でも、あなたといた時間だけは、やけに鮮明だった。あなたが恋人だったのかは今でもわからない。ただ、大切だっただけだ。

あなたはもういない。でも、それは寂しくない。あの手の温度はまだ覚えているから。

それで、それだけで十分だ。
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