あなたに会える場所
うたた寝をしていた様だ。気がつくとリビングのソファに横になっていた。起き上がってなおぼんやりとつけっぱなしのテレビを見つめていると、扉が開いてあなたが入ってきた。ただそれだけの事なのに、何故か、ひどく懐かしく感じた。一緒に暮らしているのに、今さら何故だろうと感じたが、そのまま忘れてしまった。



あなたとソファに並んで他愛ない話をした。

「同じクラスだった梢が結婚したらしいよ」、「今度のテスト、難しそうな範囲だね」なんて、世間話。

でも、ここでも私は何か引っかかった。何かが不自然な気がした。でも、何が、なのか分からなくて、気のせいという事にした。



夕方になり、そろそろ夕飯の準備だな、なんて考えていると、あなたが微笑んで私を見つめている事に気づいた。いつもより心拍数が上がって、高揚した気持ちになる。こんな気持ちは、一体いつぶりだろう。

そっと顔を寄せて、キスをした。あなたが照れくさそうに微笑む。



「私、変だね。子どもも旦那さんもいるのにこんなこと、しちゃいけないのにね」



何が変、なのかな。子どもって、旦那さんって、誰のことなんだろう。自分の言った事を反芻した。

記憶の波が、一気に押し寄せた。





ああ、これは、夢だ。あなたに会える場所なんて、夢でしかない…。

あれから、何年経ったと思っているんだろう。もう、15年になる。高校生だったあの頃、私はあなたを失った。何度となく慟哭し、それでもようやく前に進んだ私を、見に来てくれたのだろうか。優しいあなたらしい。見に来ただけでなくついキスをしてしまうところも、あなたらしくて、胸がいっぱいになる。

夢でもいい、醒めるまで、もう少しだけ。あなたを感じていたかった。これは、幸せな夢なのだから。

理由の分からない涙が、ぽろりと零れた。



目覚めると自宅の寝室で、いつもと変わらない、朝。階下で子ども達の声がする。珍しく寝坊してしまったようだった。



何か夢を見た気がする。どんな夢かは覚えていないけれど、胸が温かくて、でも少しだけ悲しかった。

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