竹取物語写作秘抄〜輝夜姫を愛した人〜
着替えを済ませた私を、老女は男性の元へ案内してくれた。部屋に現れた私を見て、彼は目を細めた。
「天女様、どうぞこちらへ」
畳のような、周りより一段高くなっている席に座ると、目の前にあったやや透けている布を降ろされる。座っている周囲が薄暗くなり、驚いて後ろにいた老女を振り返ると、老女は微笑みを浮かべながら頭を垂れる。私は今隠されているのかと思い当たり、隠される意味が分からず立ち上がってしまった。慌てて老女が寄り、座らされるも不安げな私の目を見た老女は一瞬困った顔をしたが、すぐに微笑んで布の向こうに声を掛けた。
「若様、天女様は御簾がお嫌なようでございますよ」
老女が分かってくれて、胸に滲むような喜びが広がっていく。そして老女の言葉から、この布『みす』っていうのかなと考えながら返事を待った。
「ううむ、高貴な女人の御前を晒すのも…いやしかしお嫌なものを無理には…。」
何やら悩むような独り言が聞こえるが、無理強いするような気配は無さそうで早くも安堵し始めた。

意を決したように男性は声を上げた。
「うむ、ここは我が屋敷、多少のことは咎もあるまい。薬子、御簾を上げて差し上げろ。」
「すぐに」と答え、老女はするすると布を上げてくれた。男性の顔が見えて、安堵が広がる。
あからさまに安堵した顔で男性を見つめると、男性はふいと目線をそらしてしまった。何やら男性の顔が真っ赤に染まっている。照れているのかもしれないと思うと、可愛い人だなと私の口元に笑みが溢れた。
ちらとこちらを盗み見た男性は、微笑んだ私の表情を見、口をあんぐりと開けて放心してしまった。
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