魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
 くだらない夜会もそろそろお開きの様で、音楽を奏でていた演奏家達が一人、また一人と演奏を終えていく。少しずつ静かになっていく音楽が、宴の終焉をそれとなく伝える。
 国王が真っ先に退席し、その後は位の高いものから順に、用意された客室へ、また外に並んだ馬車へとその足を動かしていく。
 そこかしこで夜会の後の、夜の茶会へと誘い合う声が飛び交っているが、ベルンハルトはその身を誰もいないバルコニーへと移した。本来であれば侯爵より後に退席するべきだろうが、まだ他の貴族達と話をしている最中の侯爵を待つ気にも、他の貴族に退席を待たれるのもごめんだ。
 皆にその存在を忘れられているぐらいがちょうど良い。

 バルコニーに出て庭を見下ろせば、その目には温室が写る。昨夜、温室で見た花は本当に綺麗だった。あれだけの種類の花が見事に手入れされているというのは、さすが王城というもの。
 それにロイスナーでは見ることのできない花々は興味深かった。もしかしたらロイスナーの城でも……とベルンハルトは考えを巡らせるが、慌てて首を振って、その考えを追い払おうとする。
 今の庭師はあの男だ。アルベルトの父親……ヘルムートに花を愛でるところを見られでもしたら……考えるだけでも恐ろしい。瞬く間に城中、いや領地中に思いもよらない噂となって広まっていくだろう。
 ヘルムートはそのような手腕だけ、いや他にもあらゆる手回しが得意だが、とにかくそういうことには右に出る者がいない。余計な真似はするものじゃない。
 庭に近づくのはやめておくしかない。

(今夜も温室に行ってみようか)

 この城に滞在するのも明日までだ。
 バルタザールに招かれて、他の貴族達よりも長い間城へ滞在するように言われているが、今日まで何事もない。バルタザールは何のためにベルンハルトを呼びつけたのか。その理由が未だにわからないまま、時が過ぎる。
 何か見せたいものがあるのか、言いたいことがあるのか、それともただの気まぐれか。何も思い当たる節のないベルンハルトは、不審に思いながら今夜までを過ごしていた。
 そんな時を過ごす中で見つけた、憩いの場所。温室に咲く美しい花々を思い浮かべる。
 その中でも一際美しく、木の根元に咲いていた、リーゼロッテの姿と共に。
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