魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

二度目ですね

 立ち止まっているリーゼロッテの前に現れたのは、ベルンハルトだった。
 昨夜のように、花を一つ一つゆっくり見ながら、一歩ずつリーゼロッテの方へと近寄ってくる。花に夢中になっているベルンハルトはまだリーゼロッテに気づいていないが、このチャンスに声をかけようと、リーゼロッテは背筋を伸ばして、ベルンハルトを真っ直ぐに見つめた。

「ロイエンタール伯爵」

 リーゼロッテが声をかければ、ベルンハルトは花を見ていた形のまま、動きを止めた。そして、壊れたからくり人形のようにゆっくりと、ぎこちなく、リーゼロッテの方へと向き直る。

「リ、リーゼロッテ王女。こんな時間に、ど、どうされました?」

「まぁ。ふふ。それは、ロイエンタール伯爵もですわ。こんな時間に、このような場所にいらっしゃるなんて、思いもしませんでした」

「わ、私は明日領地に戻りますので、最後に、も、もう一度花を見たいと……」

「そうですか。お花が、お好きなんですね」

「はい……こ、ここには、珍しい花も多いので……」

 仮面の下に隠されたベルンハルトの表情はリーゼロッテにはわからない。
 ただ、リーゼロッテのことを避けずに、蔑まずに、きちんと会話をしてくれるところに、ベルンハルトの誠実さを感じていた。

「昨夜も、いらっしゃいましたよね?」

「い、いや、は、はぁ。そう、ですね」

 緊張しているのだろうか、ベルンハルトの言葉はどれもつっかえていて、決してなめらかな会話のやり取りではないけれど、リーゼロッテはそれを不快には感じない。

「ロイエンタール伯爵。昨夜は、ありがとうございました。おかげで助かりました」

 リーゼロッテが腰を落とし、頭を下げ、ベルンハルトに感謝を伝える。
 昨夜はベルンハルトが隠してくれたおかげで、バルタザールに叱られずに済んだ。かばってくれた理由はわからないけど、バルタザールに嘘をついてまで、リーゼロッテのことを隠してくれたのは間違いじゃない。

「い、いや。大したことではないので」

 ベルンハルトの表情はやはり伺い知ることは出来ないけど、真っ白な仮面とは対照的に、耳が赤く染まっているのが目に入る。

(まぁ。お耳が……)

「それでは、わたくしはそろそろ戻ります。ロイエンタール伯爵は、ごゆっくりなさってください。この先にもまだ、いくつもの花が咲いているのですよ」

 リーゼロッテは、もう一度ベルンハルトに軽く頭を下げた。

「おやすみなさい、良い夢を」

 眠りの前の決まり文句を口にすると、リーゼロッテはベルンハルトの横を通り抜け、出口に向かう。
 ベルンハルトとすれ違った時に感じた、お酒と柑橘類の混ざった様な匂いは、リーゼロッテに家族や城の者とも違う存在を、深く印象付けた。
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