魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
 バルタザールの部屋の前にたどり着くと、隣で感じていたエーリックの周りの空気が一変した。冷え込んだような、凍りついたような、そんな空気に息をするのすら辛くなる。
 横目でそっとエーリックを見上げれば、その瞳はまたいつものガラス玉の様に、一点を見つめて動かず、リーゼロッテのことを見えているのか心配になった。

「父様。リーゼロッテを連れて参りました」

 エーリックとの和やかなやり取りに気を取られていたが、バルタザールがリーゼロッテを呼び出すとは、何の用だろうか。
 一昨日の逃げ出した練習のことだろうか。
 翌日であればともかく、二日間もバルタザールの意識がリーゼロッテへと向かうことなんてなかった。
 バルタザールは国王としての執務に追われ、子どものことを省みる暇などないはず。
 それならば、今日はなぜ呼ばれたのか。

「遅い。入れ」

 扉の向こうからはバルタザールの不快感を存分に表した声が聞こえる。
 リーゼロッテは緊張で呼吸が浅くなる。
 エーリックの冷ややかな空気と緊張感で、今にも息が止まりそうだ。

「失礼します」

 先に部屋へと入ったのはエーリックだ。リーゼロッテはエーリックの後ろを、少しでもバルタザールから見えない様について入る。

「客を待たせているのだ。早く連れてこいと伝えたであろう」

「申し訳ありません」

 リーゼロッテの前に立ったエーリックが感情を押し殺した様な声でバルタザールに謝罪を伝える。
 だが、リーゼロッテの興味はバルタザールの告げた言葉にあった。

(客? 誰かしら)

 エーリックの後ろに隠れたままということは、リーゼロッテからも室内の様子は伺い知ることはできず、誰が部屋にいるのかを確かめることもできない。
 その時、部屋の中で誰かが立ち上がった気配を感じた。
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