魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
 ベルンハルト・ロイエンタール伯爵。王都シュレンタットからは遠く離れた辺境地を治める辺境伯。
そして、代々龍を率いることのできるロイエンタール家の当主。その証拠にあざがあり、それを隠すために仮面をつけているらしい。
 そして、あざがあることで、周りの貴族たちからは遠巻きに見られている。そのことを知ってほんの少しだけ、魔法が使えないことで蔑まれている自分に似ているのではないかと、親近感が湧いた。

 リーゼロッテがベルンハルトについて知り得た情報はこれだけだが、それは十分にリーゼロッテの行動を控えさせた。ただでさえ遠巻きに見られているベルンハルトに、更なる傷はつけられない。
 あの晩、温室でバルタザールから庇ってくれた恩を、周りから見下されてる自分と普通に話してくれた感謝を、リーゼロッテは今でも深く感じていた。
 鏡に向かって、様々な思いを反芻しているうちに、誰かがドアをノックする音が聞こえる。

「リーゼロッテ様。ロイエンタール伯爵がお見えです」

「通してください」

 ベルンハルトのことを考えていただなんて、そんな素振り見せる様子もなく、リーゼロッテは冷静を装って、部屋を訪ねてきたベルンハルトを迎え入れた。

「リ、リーゼロッテ王女。準備は、い、いかがでしょうか?」

「ロイエンタール伯爵。お待たせして申し訳ありません。先程、整いました」

 先日のバルタザールの部屋で見た時のベルンハルトはどこへ行ったのだろうか。温室で声を交わした時のような、つっかえつっかえの会話に、何故だか愛しさが込み上げる。
 椅子から立ち上がり、ベルンハルトの側に寄っていけば、耳が赤く染まっていくのが目に入る。

「お、お美しいです」

「ありがとうございます。ロイエンタール伯爵も素敵です」

 そう微笑みかければ、耳が更に赤くなっていったのがわかる。
 バルタザール相手に物おじすることなく話をしていたベルンハルトと、今こうしてリーゼロッテの目の前にいるベルンハルト、どちらが本当の姿なのだろうか。
 その姿を見ているだけで、興味を失った自分の人生が、ほんの少し楽しいものになりそうな予感を感じていた。
< 18 / 45 >

この作品をシェア

pagetop