魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「そろそろ、広間に行く頃合いですね」

 婚約披露の会場となる大広間では、大勢の貴族たちが好き勝手な噂話を口にしながら、二人を待っていることだろう。夜の社交のデビューもまだ果たしていないリーゼロッテが、婚約者であるベルンハルトのエスコートでその場に姿を現せば、噂話はさらにエスカレートするに違いない。
 自ら、頃合いだと言っておきながら、騒つく貴族たちの前に出て行くのは気が進まない。
 リーゼロッテは頭の中で繰り広げられる想像に、嫌気がさしてしまった。

「ど、どうか、されましたか?」

「いえ。大丈夫です。ただ少し、緊張してしまったようです。わたくし、夜の社交は今夜が初めてなのです」

「そ、そうですか」

「ご迷惑をおかけしたら、申し訳ありません」

 リーゼロッテの先走った謝罪に、ベルンハルトが少したじろいだ気がした。

「私こそ、ふ、不快な思いを、させてしまうかもしれません。その時は、申し訳ありません」

 そしてベルンハルトが口にしたのも、同様に謝罪の言葉。

「不快な思いですか?」

「はい。き、貴族たちの中で、私がどう言われているか、し、知らないわけではないでしょう?」

 ベルンハルトが気にしていたのは、自身にまつわる噂話のことだろう。

「もちろん、存じ上げております」

「ですから、私が相手ということで、い、嫌な思いをされてはと……」

「そのようなもの、気にもなりませんわ。ロイエンタール伯爵も、わたくしが何と言われているか、ご存知でしょう?」

 この髪の色で、魔法が使えないことを見下され嘲笑われてきた。
 広間で嫌な思いをするのは、ベルンハルトの方かもしれない。

「し、知ってはいます」

「ですから、ご迷惑をかけるのは、わたくしの方なのです」

「そんなことは……」

「ふふ。これでは、きりがありませんね。それでは、どちらのせいで嫌な思いをしたとしても、おあいこに致しましょう」

「お、おあいこ?」

「はい。お互い様です」
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