魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

温室での出会い

「お前は相変わらず役に立たないな。その髪の色は飾りか?」

「申し訳ありません。お父様」

 日常的に受ける叱責でも、その言葉に慣れることなんてない。心はいつだってズタズタに傷つけられた。
 何度も繰り返される自分を責める言葉に、リーゼロッテの目もとには涙が光る。だけど、それが流れ落ちるのを、ぐっと唇を噛みしめてこらえた。
 以前、こらえきれずにこぼれ落ちた涙を見た国王バルタザールに、これでもかというほど叱りつけられたからだ。

「その点、エーリックは相変わらず優秀だな。次は風を起こして見せてくれ」

「わかりました。父上」

 エーリックは、その場で立ち尽くしているリーゼロッテから目を逸らし、バルタザールに言われた通りの魔法を出現させる。
 その表情からは何の感情も読み取れない。相変わらず、作りものみたいだ。
 ただ、風を起こすのは兄であるエーリックの得意な魔法。言われた通りにその手から巻き起こされた風は、周りの窓ガラスに音を立てさせ、リーゼロッテの髪の毛を揺らし、もう一度エーリックの手に吸い込まれていく。
 そんな様子を見た後で、リーゼロッテは、火も水も風も起こすことのできない自分の手のひらをじっと見つめた。

(何度叱られようとも、使えないものは仕方ないじゃない)

 バルタザールの思い通りに、リーゼロッテが落ち込んでいたのは既に何年も前の話。
 何度も繰り返される叱責に、その度に傷つけられた心はいつしか、かさぶたとなって厚くなり、そして痛みに鈍感になる。落ち込んでいるそぶりなど、望まれればいくらでも。
 痛みを見てみぬふりなど、慣れたもの。謝罪の言葉を用意して、心も込めずに口先だけ。噓泣きさえも、得意になっていた。

 色素の薄い髪の色は強い魔力の証拠のはずだった。歴史に名前を残す偉大な魔術師達は皆、白く見えるほどの金髪か、銀髪。
 髪の色だけはエーリックにもバルタザールにすら負けてない。
 それなのに、生まれた直後にあれほど大きな期待を受けたリーゼロッテは、未だに一つも魔法を使うことができない。

 二人の仲睦まじい様子を横目に、リーゼロッテは魔法練習部屋を静かに出て行く。
 目元に浮かべた涙は既にどこかへ消え去り、口元にはせいせいしたと言わんばかりに微笑みが浮かんでいた。そんな表情を誰かに見られるわけにはいかず、慌てて廊下を走る。
 王女としてはしたないのはわかっている。それでも、見つかる前に一刻も早くこの場から立ち去らなければいけない。こんな顔を見られたら、また叱られてしまう。

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