魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

王女と結婚するということ

「お、おあいこ?」

 本日、まさに今から婚約発表をする相手、リーゼロッテの口から紡がれる、聞きなれない言葉に、思わず声がひっくり返りそうになるのを、ベルンハルトは必死で堪えた。
『おあいこ』とは『お互い様』のことらしいが。そんな言葉、聞いたこともない。
 その後に続くリーゼロッテの言葉に、聞いたこともないはずだと、妙に納得してしまっていた。その様にベルンハルトに言ってくれる相手など、これまでに存在したこともない。

 言ってくれそうな相手に、一人だけ心当たりがあるが、ベルンハルトのことを最優先に考えるアルベルトには、そんな考え頭にも登らないだろう。
 ベルンハルト相手に、可愛らしくそう話してくれるリーゼロッテのことを見つめながら、つい頬が緩む。ベルンハルトの噂を知っていてもなお、警戒せずに会話をしてくれるリーゼロッテのことが、愛おしくて仕方ない。

(まずいな。顔が崩れる)

 緩んでしまった頬を、赤く染まったであろう顔色を、必死の思いで抑え込んだ。


「アルベルト、私は王女と結婚することになるそうだ」

 バルタザールの私室からようやく解放された後、割り当てられた客室の椅子に腰をかけ、目の前に置かれたテーブルに肘をつき、頭を抱えてそう話をする。
 挨拶の翌日、朝からバルタザールに呼び出されたベルンハルトを心配しながら、客室で待ち侘びていたアルベルトに、呼び出された要件を伝えれば、予想だにしていなかった内容に、さすがのアルベルトも慌てていた。
 それでも手にしたティーポットを落とさなかったのは、執事長としての意地だろう。

「おう、じょ?」

 いつでも落ち着き払った仕草のアルベルトの目が大きく見開かれているのを見れば、その珍しさに、つい凝視してしまう。

「あぁ。そうだ」

 人というのは不思議なもので、自分より過剰に反応している者を見れば、返って自分が冷静になれる。
 ベルンハルトは結婚相手を告げられた時からの動揺がようやく収まっていくのを感じていた。
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