魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

二つの式

(あぁ。もう、抜け出したい!)

 ベルンハルトと共に向かった広間で、繰り広げられる見せものは、想像以上の攻撃力でリーゼロッテの心を破壊していく。
 バルタザールとの日々で、自分の心は強くなっているはずだった。どんな言葉でも、くだらないと笑いとばせる自信があった。それなのに、そんな自信はあっという間に砕け散る。

 広間に入ると同時に、貴族たちから向けられる視線。軽蔑と奇異の感情の入り混じった不快な視線。
それを一気に向けられた。
 それは果たしてリーゼロッテに向けられているのか、隣に立つベルンハルトに向けられているのか、それすらもわからない距離で、ただただ拒否することもできない視線に晒される。

 視線だけであれば、下を向いて見ないようにしてしまえばそれで済んだ。
 それ以上に耐えられなかったのはふさぐことのできない耳から入ってくる声。
 魔法が使えないことを嘲笑されるのは仕方ないと思っていた。今更、リーゼロッテの力ではどうにもならない問題。
 きっと、ベルンハルトのあざだって、同じようなものだろう。それなのに。

『あの仮面の下に、醜いあざが広がっているらしいわ』

『ロイエンタール家の者に出てくる龍の鱗のあざでしょう?』

『何百年も前に、龍と契ったと聞いたわ。ロイエンタール家の者はその末裔だそうよ』

『龍の血が混じっているから龍を率いることができるのよ。あのおぞましい獣の血だなんて』

『いくら魔力がないとは言っても、国王陛下もそのようなところに娘を嫁がせる必要もないでしょうに』

『魔力がないからなのよ』

『ロイエンタール家は魔力が強すぎて、いつ敵対勢力となるかわからないんですって』

『次に生まれる子どもの魔力が少なくなる様にってこと?』

『この国の貴族たちは国王が認めないと結婚も離婚もできないもの。あの二人はもう添い遂げるしかないのよ』

『まぁ、お可哀想に』

 嘘か本当かもわからぬ内容を、さも真実の様に語る声は、用意された席についているリーゼロッテの耳を汚す。隣に座っているベルンハルトにも当然聞こえているだろう。
 リーゼロッテが誰にもばれぬように、そっと隣を盗み見れば、ベルンハルトは広間に入る前に見せていた顔を崩すことなく、平然とした顔で座っている。
 その顔からは何の感情も、うかがい知ることはできない。すぐ近くにいるはずのベルンハルトの気持ちもわからない。
 リーゼロッテはこの広間でたった一人、底のない孤独を感じていた。
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