魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「リーゼロッテ王女」

 体中を覆いつくしてしまうような孤独と一人戦っていたリーゼロッテに声をかけてきたのは、ベルンハルトだった。

「はい。何でしょうか」

「ここから、退席されますか?」

 ベルンハルトの言葉に、体が小さく反応するのがわかった。退席など、許されるはずもないと思っていたからこそ、その言葉に心が弾んでしまう。

「できるのですか?」

「えぇ。私さえ残れば、国王には叱られないように対処しておけますから」

「それでは……」

 退席するのはリーゼロッテだけということだ。
 この不快な席に、一人で残るベルンハルトのことを思う。

(私一人で……逃げるの?)

 答えに詰まったローゼロッテがベルンハルトを見つめていると、その口元が小さく微笑みを作り出した。あの夜、温室で向けられた口元。全てを任せておけばいいと、そう思ってしまいそうになる。

「いえ。わたくしも残ります」

『おあいこ』だと言った時の本当の笑顔。リーゼロッテが嫌な思いをしたら……と謝ってくれた人。
 そんなベルンハルトをこんな場に一人で残しておけないと、楽な道への選択を自ら手放す。

「大丈夫、ですか?」

「はい」

 大きく深呼吸をし、肺一杯に空気を取り込んで、リーゼロッテはお腹に力を入れた。夜会も既に中盤をすぎたはず。奥歯に力を入れて、唇をかみしめた。

「リーゼロッテ王女はダンスは得意ですか?」

「え? え、えぇ。苦手ではありませんわ」

 魔法を使えないこと以外で見下されぬように、リーゼロッテはその他の嗜みには人一倍力を入れて学んでいる。社交のデビューが遅くなったこともあって、その腕前は誰の前に出ても、文句を言われることがないくらいだ。

「ちょうど曲が変わります。私と、お相手願えますか?」

 ベルンハルトがリーゼロッテの目の前に掌を差し出す。
 広間の中央では何人かの貴族たちがダンスを披露していた。その場に出ていくというのか。ただでさえ変な目を向けられているというのに、わざわざ注目されに行くと。

「ふふっ。喜んで」

 リーゼロッテはベルンハルトの手を取った。更なる注目を浴びに行こう。これ以上見下されることもないだろう。それならば、何だってやってしまえばいいじゃない。
 二人は作り上げた笑顔を張り付けて、中央へと出て行った。
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