魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「リーゼ、結婚おめでとう」

 奇跡を祈ることしかできなかった結婚式当日、リーゼロッテのたった一人の親友は、その姿を王城に現した。

「アマーリエ! どうして?!」

「お友達の結婚式ですもの。来られて良かった。それにしても本当に綺麗」

 アマーリエはリーゼロッテのを手をとると、その美しさに、久しぶりの再会に、涙を浮かべて喜んだ。

「来てくれたことは嬉しいの。でも、なぜ? わたくし、結局招待状を送ることができなくて。そのことをお父様に願い出ることもできなかったの」

「わかっているわ。でも、リーゼはロイエンタール伯爵にそのことを相談したでしょう? わたくしに招待状を送ってくださったのはロイエンタール伯爵よ」

 アマーリエの言葉に、リーゼロッテは勢いよくベルンハルトのことを見た。
 婚約披露の時のように、広間の座席の隣に座るベルンハルトは、そんな視線も会話も気にもせず、すました顔で前方を見続けていた。

「あの方が? どうやって?」

 再びアマーリエの方を向き直ったリーゼロッテは、先ほどよりも声の音量を控えて、アマーリエに説明を求める。

「ロイエンタール伯爵の治めるロイスナーは、お隣の領地ですもの。少ないけれども関わりがないわけではないわ。お父様宛に、直接お手紙を下さったの。そうすれば、ね。ロイエンタール伯爵の言うことを聞かないわけにはいかないわ」

 話し終えると、アマーリエが優しく微笑んだ。
 ロイエンタール伯爵は、辺境伯だから。格上のロイエンタール伯爵からの招待を断れるはずがない。
 そんな言葉が、アマーリエの話の外に含まれているような気がする。

「そういうことね」

「えぇ。それにしても、本当に綺麗」

「流石にこれだけ貴族が集まる結婚式だからね、お父様も取り繕うわよね」

 国立学院在学中に何度も話した、お互いを取り巻く理不尽な環境。お互いのそんな身の上を知っているからこそ、二人は立場を超えてざっくばらんに話ができる。
 もちろん最低限の礼儀はわきまえているが、リーゼロッテに余計な気を回すことも、魔力だけでリーゼロッテの価値を測ることもないアマーリエのことを、リーゼロッテは誰よりも信頼していた。

「わたくしはロイスナーの隣の領地にいつでもいるわ。そちらへ行って、何かあったら何でも言ってちょうだいね。わたくしにできることなら、何だって」

「アマーリエは結婚は?」

「お相手が見つかり次第ね。でも、わたくしが外に出ると領地の結界が維持できないでしょうから。領地内でどなたかお相手を見つけることになるわ」

「そう。アマーリエはあんなに外の世界を見たがっていたのに」

「中央で学ぶことができただけで十分よ。それもリーゼがいてくれたから」

「またお会いすることができるかしら」

「どうかしら、ロイエンタール伯爵次第ね」
 
 リーゼロッテにすら知らせずに、親友に会う場を作ってくれたベルンハルトを横目に見るが、その仮面をつけた顔からは、何の感情もうかがい知ることはできなかった。
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