魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「リーゼロッテ様、お待ちしておりました」

 ロイスナーへの旅路は馬車で三日。一人きりでの旅は確かに退屈だったけど、その分自分のペースで道中にある他領地を見ることができる。
 移動することのできない夜間は、ロイスナーから迎えとしてやってきた御者や護衛と親交を深めて、それなりに楽しい旅路であった。

「お出迎え、ご苦労様です」

 御者に手を添えられ、馬車から降りれば、王城に引けも取らない立派な城が目の前にそびえ立っている。
 それにもかかわらず、リーゼロッテを迎えに出るのがたった一人というのは、その城の広さから鑑みても不自然である。

(どこの城でも一緒、ということね)

 明らかな不自然さも、リーゼロッテにとっては自然なことで、そこに何の疑問も抱かない。出迎えの少ない帰城など、シュレンタットでは日常で、出迎えが無いよりマシだと開き直ってそびえ立つ城を見上げた。

「ベルンハルト様が中でお待ちです」

 リーゼロッテのことを迎えに出てきた、執事だと思われる人物が、城を見ながら微動だにしないリーゼロッテへ声をかける。

「少しお待ちいただければ、ふさわしいものに着替えてきますが」

 リーゼロッテは移動のために、作りの簡単なものを着ていた。
 先に部屋に通してもらい、それなりのものへと替えるべきだと話をするが、執事はその首を左右へと振る。

「ベルンハルト様が、リーゼロッテ様がお着き次第通す様にと仰っています。先に、ご挨拶をお願い致します」

 執事の口調は丁寧で、それでいて断ることのできない圧力を感じる。シュレンタットの執事の中にも、バルタザールが何も言わないことをいいことに、リーゼロッテに対し高圧的な態度を取る者がいたが、それとはまた違う。

「わかりました。それではこのままで」

「こちらへどうぞ」

 執事の案内に従って、城の中へ向かって歩く。
 途中横切る中庭は、手入れが行き届いていて、花を好きだと言っていたベルンハルトの城らしさを感じた。

「心地のよいお庭ですね」

 リーゼロッテを先導するように、数歩先を歩く執事の背中に話しかける。その背中が緊張したように動きを止め、執事がリーゼロッテを振り返った。

「それは良かったです。庭師も光栄に思うでしょう」

「ロイエンタール伯爵もお好きですものね」

「ベルンハルト様が? 何を?」

「何をって、お花ですよね?」

「そ、そのようなことは聞いたことございませんが」

「え? だ、だって城の温室でも、あんなに……」

 リーゼロッテの言葉に、執事の顔がどんどん驚きを深めていく。
 そして再び前を向き、また城へ向かって歩き始めた。その歩調は先程までとは違い、人を案内するスピードではない。徐々に早くなっていく速度に、リーゼロッテは必死に着いていくしかなかった。
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