魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「ベルンハルト様。リーゼロッテ様をお連れしました」

 執事がすました声を作り、扉の向こうへと声を上げるのを聞けば、リーゼロッテはそのギャップに更に笑いが酷くなった。

「通してくれ」

 咳払いで催促をしていたくせに、ベルンハルトのすました声に、リーゼロッテはそろそろ我慢の限界を迎えそうである。
 大きな声を上げて笑い出してしまいそうなのを、なんとか堪えて、開かれた扉の向こうへと足を踏み入れた。

「ロイエンタール伯爵。大変遅くなりました。これから、よろしくお願い致します」

 扉を入って真っ直ぐ、部屋の突き当たりには大きな窓が付けられていた。その窓を背にして、直ぐ前の大きな机がベルンハルトの執務机だろう。
 いくつもの書類が積み上げられたその机を見れば、ベルンハルトの仕事の忙しさを垣間見ることができる。
 ベルンハルトがリーゼロッテの着替えを待たずに挨拶に来る様に言ったのは、改めてゆっくり時間をとることができないからかもしれない。

 執務机の前に立ち、リーゼロッテの挨拶を受けたベルンハルトの顔には、やはり仮面が付けられていて、自らの城であってもそれを外すことはないということがわかる。

(やっと素顔を見られると思っていましたのに)

 仮面の下の素顔が気になって仕方ないリーゼロッテは少し気を落とすが、その仮面の下を暴くのもまた楽しみの一つだと、即座に思考を切り替えた。

「こちらこそ、よろしく頼みます。それから、私のことはベルンハルトと呼んでください。いつまでもロイエンタール伯爵では……」

「わかりました、ベルンハルト様。わたくしのこともリーゼロッテとお呼びください」

「それは……」

「かまいません。ベルンハルト様は既にわたくしの、旦那様なのですから」
 
 リーゼロッテがすぐにベルンハルトの名を呼び微笑みかければ、仮面の白さと対照的に、その耳の赤さが目立って見える。

「し、城の中のことは、そこにいるアルベルトに聞いて下さい。アルベルト、後は頼む」

 リーゼロッテのことを案内していてくれた執事はアルベルトというらしい。
 ベルンハルトの言葉を聞いたアルベルトが静かに頷くと、それを見届けたベルンハルトはすぐに机に向かってしまった。
 温室や、婚約披露のときの様に穏やかに話ができると思っていたリーゼロッテは、ベルンハルトの態度に少しがっかりしながらも、書類の山に向き合うベルンハルトのことを頼もしく思う。

「リーゼロッテ様。お部屋にご案内いたします」
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