魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「それでしたら、このお部屋は随分とご無理なされたのでは?」

「それは……」

 アルベルトの目が宙を泳ぐ。目は口ほどに物を言うとは、正にこういうことをいうのだろう。

「このように素晴らしいものを揃える必要はなかったのに」

「そう、仰らないで下さい。これはベルンハルト様の意地です。王族から奥様を迎え入れるに当たって、せめてこれぐらいのことをするべきだと、自ら吟味されておりました。受け取っていただけるとありがたいのです」

 アルベルトの眉が困り果てたように中央に寄る。
 この件での彼の苦労が滲み出ていた。

「ふふ。大変だったのね」

「いえ。ベルンハルト様のお考えを実行するのが私の役目ですから。ただ、専属だけは……申し訳ありません」

 話しながらようやく上を向いていたアルベルトの頭が、再び大きく下げられる。

「頭を上げてください。専属なんていりません。シュレンタットでもいなかった様なものです。皆様のお仕事を増やしてしまうのが申し訳ないのですが、お食事やお掃除をお願いできればそれで」

「そんなことは、もちろんでございます」

「それでは、侍女の件はもう良いですね。お部屋も十分です。交換など必要ありません。本当に素敵なお部屋を、ありがとうございます」

 リーゼロッテはソファから立ち上がり、頭を下げた。
 使用人に頭を下げるべきではない、そんなことはリーゼロッテも知っている。
 だが、これほどの用意をしてくれたことに、リーゼロッテの為にされた配慮に、ここは頭を下げるべきだと、そう思った。

「リ、リーゼロッテ様……」

「うふふ。皆様には内緒にして下さいね。特に、ベルンハルト様には」

 そう言って、先程のように内緒のポーズを作る。

「リ……奥様。かしこまりました」

「まぁ。それでは、これからよろしくお願いします」

 アルベルトがリーゼロッテのことを『奥様』と呼び変えてくれたことに、受け入れてもらえた安心感を得る。
 ロイスナーでの生活に、新たな希望を見出した。
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