魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「立ち話で済ますには長くなりそうです。そちらへおかけ下さい。すぐにお茶を淹れて参ります」

 顔色を悪くしたリーゼロッテのことを気遣ってか、ヘルムートが庭に設置されたテーブルセットに手を向けながら勧めてくる。

「ありがとうございます」

 リーゼロッテにとってもその誘いはありがたく、素直に受け取って席に着いた。
 ヘルムートの淹れてくれるお茶は想像以上に美味しくて、リーゼロッテの身体と心に染み入ってくる。

「この城の使用人の数は普通の城よりは少ないかもしれませんね」

 リーゼロッテにお茶を出したヘルムートは、その側に立ったまま話を続けようとする。

「ヘルムートさんも座って下さい。ゆっくりお話しが聞きたいです」

 自分の父親ほどの年齢に見える男性のことを、使用人とはいえ呼び捨てで呼ぶ気にもなれず、さらに自分に席を勧めたヘルムートが立ったままというのは、どうにも居心地が悪い。
 リーゼロッテはヘルムートにも着席してもらい、会話を楽しみたいと考えた。

「私もですか……」

 ヘルムートがついと視線を城の窓に送った気がしたが、すぐにニヤッと口角を上げ、リーゼロッテと向かい合う様に席に着いた。

「それでは、お言葉に甘えて失礼します」

「えぇ。どうぞ」

「さて、この城の使用人が少ない理由は経済事情だけではありませんよ。ご心配なさらなくても、そこまでひっ迫してはおりません。ベルンハルト様があまり人を寄せたくないらしく、そちらの理由の方が大きいかもしれません」

「あ……」

 ヘルムートの口から一気に語られた理由には説得力があった。社交の場であんな目に遭ってるベルンハルトが、人を寄せ付けたくないのもわかる。

「お心当たりが?」

「少しだけ」

「色々、聞きましたか」

 貴族の間の噂話は、ヘルムートも知っているのだろう。視線を下に落とし、口をつぐんでしまった。

「あの様なことばかりでは、嫌になりますわ」

「奥様がそう言ってくださる方で、ほんとうに良かったです」

「わたくしも色々言われてしまうので、皆様にご迷惑をおかけするでしょう。本当にすいません」

 リーゼロッテはヘルムートにも頭を下げる。

 今後この城で過ごしていくのであれば、使用人達に良い印象を与えておくのも大切である。
 自分の頭一つで、これからの平和が得られるのであれば安いものだと、その為には慣習など破ってしまえばいいと、そう考えた。
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