魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「お、奥様!」

 先程はまで落ち着き払っていたヘルムートが、リーゼロッテの行動を見て、さすがに狼狽えはじめる。

「こんなこと、するべきではないのはわかっています。ですが、そうしないではいられないほどの迷惑をかけてしまうかもしれません。皆様には内緒にしておいて下さいね」

 そう言うと、アルベルトに見せたのと同じように口元に人差し指を当てた。

「な、内緒……ですか」

 ヘルムートの視線がまた城の方に向いた気がしたが、リーゼロッテはそんなことも気にせず微笑んで話を続ける。

「えぇ。内緒にしておけば、誰かに何かを言われることもないでしょう?」

「内緒にできたかどうかは、保証致しかねますが……」

 ヘルムートが何やらぼそぼそとため息混じりに呟いていたが、リーゼロッテはこうやって話ができたことに満足していた。

「ヘルムートさん、またお庭に来てもよろしいかしら?」

「それはもちろん構いません。ですが、私のことをそのように呼ぶのはおやめ下さい」

「良いではありませんか。わたくし、このようにお話できて嬉しいのです。わたくしがこちらに慣れるまででいいのです。話し相手になってくださいませんか?」

「話し相手など、いくらでも務めますから」

「では、お友だちに!」

「それは、致しかねます」

「あら、そお? それではお約束ですよ。話し相手になって下さいませね」

 リーゼロッテはそう言って席を立つと、城の中へと足を向けて歩き始める。
 数歩進んだところで、後ろを振り返った。

「ヘルムートさん、またお話しましょうね」

 そう言うと、素早く城の中へ戻っていった。
 残されたヘルムートが何やら困惑と喜々の入り混じった顔をしていたが、そんなものを見ることもなく、リーゼロッテは部屋へと戻る。
 そのままお気に入りのソファに腰かけ、これからの生活を思い浮かべる。

 結婚させられてしまった以上、もう後戻りはできない。
 リーゼロッテのことを避けるような人物がいないうちに、できる限り自分を知ってもらわねば。遠慮して、出遅れるわけにはいかない。
 ここで何が起きたって、次は逃げ場所なんてない。ロイスナーでの生活が辛いものになってしまえば、今度こそ一生逃げることのできない牢獄。
 華やかな家具に囲まれながら、リーゼロッテは唇を嚙み締めた。
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