魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

ロイスナーの冬

 ロイスナーへ移動してきて初めての冬がやってこようとしていた。シュレンタットよりも北にあり、領地のすぐ横に高い山脈を抱えるロイスナーの冬は早く、そして厳しい。
 ただ、日一日と寒さが増す気候よりも、リーゼロッテの心を凍えさせているものがある。
 それがベルンハルトの態度だ。

「ヘルムートさん、わたくし、どうしたらいいのかしら」

 相談相手は移動した初日以来、常に庭師のヘルムートではあるが、これといった解決策もないまま日々が過ぎていく。

「今日は、どうされました?」

「ベルンハルト様が食事を一緒に取りたがらないのは、もう諦めましたの。だからね、せめてお茶だけでもいかがですか? ってお誘いしたのよ」

 リーゼロッテは庭に置かれた椅子に腰をかけ、テーブルに肘までついて不満を口にする。

「その様子では、断られたと」

「そう!」

「まぁ、今の時分は少々忙しすぎるのかもしれませんね。一分一秒でも惜しい、といったところでしょうか」

「それは、冬だから?」

「要因の一端ではあるでしょうね」

 そう言いながらヘルムートがいつものようにお茶を淹れてくれる。
 ヘルムートの淹れるお茶は温度も苦味も完璧で、寒くなってきた頃から、最初の頃よりも少し温度の高いものに変わっていっているのがわかる。
 熱いぐらいのカップを両手で包み込み、冷ましながら少しずつ口にしていくのが、リーゼロッテの今の癒しの時間だ。

「冬はそんなに大変なの?」

「ロイスナーは周りの道が雪で通れなくなります。そのため人の行き交いがなくなり、物流が止まります。領内にあるものだけで冬を越さなければならないのです」

「食糧を増やしておかなければならないということ?」

「そうです。それに、領内に全域に万遍なく食糧が行き渡るようにしなければなりません」

「その調整が大変ということね」

「それに……」

「それに?」

「いえ、それはまた今度に致しましょう。お茶もなくなってしまったようですし、体が冷えます。もうお部屋にお入りください」

 ヘルムートがそう言って空を見上げれば、今にも何か降り出しそうな、湿気をたっぷり含んだ雲が一面に広がっていた。
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