魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
 寝台の上に横になるも、一人で使うにはあまりにも大きい寝台は、毛布に包まれていても何となく寒々しい。
 初めてここで眠りにつく日は、新しい寝台に、布団に、結婚してからの初めての夜に、緊張で眠れなかった。
 そんな思いも二ヶ月も経てば薄れてきて、今では朝までぐっすりなのだが。未だにベルンハルトと過ごすことのない夜の時間がリーゼロッテは好きではない。
 早く眠りについて、早く朝が来ないものかと、毎晩誰よりも先に灯りを消す。そして寂しさを感じるよりも先に、睡魔にその身を預けるのだ。

 あの日、自ら頭の中で否定した可能性をもう一度呼び起こす。
 バルタザールを連れて出て行ったベルンハルトが、もう一度温室に戻ってきてくれたこと。
 木の根元で眠りこける自分に、優しくかけてくれた毛布。
 愛されているなんて、そんなことを思える自信なんてない。でも、少しぐらい好意を持ってもらえているんじゃないか、せめて、この城に居ても良いと思えるだけの自信が欲しい。

 誰にも愛された覚えの無いリーゼロッテは、そんな些細な自信すら、持ち合わせていなかった。

 国王の命令だから、受け入れざるを得ない。
 そんな風にベルンハルトが考えていたとしても、それを盾にこの城に居座るしかない。
 リーゼロッテには、戻る道は残されていない。

 今夜もまた、心の中でくすぶる寂しさに蓋をして、その寂しさごと優しく包み込んでくれる睡魔に身を委ねる。
 ただし、今夜はあの毛布を胸に抱いて眠ろう。
 空想の中だけでも、ベルンハルトに思われている自分を描こう。
 温室の中で、バルタザールからかばってくれたあの優しさに存分に甘えよう。

 目が覚めればまた、ロイスナーに居るための努力を重ねなければならない。
 少しでもお互いにとって居心地の良い場所になるように。ベルンハルトに不快な思いをさせないように。仮面の奥のあの瞳に、嫌悪が広がらないように。
 もしかしたら見当違いの努力かもしれない。既に無駄なことなのかもしれない。
 それでも、リーゼロッテにそれをしない選択はない。
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