魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「は、はぁ。それで、温室でどなたかにいただいたと?」

「そうなのです! わたくし、その方を探していて……もしかしたら……」

「もしかしたら?」

「ベルンハルト様ではないかと」

「ほぅ。なぜ、そう思われるのですか?」

「だって、ベルンハルト様はお花がお好きでしょう? わたくし、温室でお会いしたのよ」

 ヘルムートの顔に驚きが広がる。
 アルベルトに話をした時もそうだったが、ベルンハルトの花好きはどうやら知られていないようだ。

「ベルンハルト様は花が好きでいらっしゃるんですね。存じ上げませんでした。今度、執務室にお届け致しておきます」

「えぇ。ぜひ、そうして下さいな。きっと喜びますわ」

「ご忠告、感謝いたします」

「それでね、このことをベルンハルト様にうかがったらどうかと思って。これをきっかけにもう少し仲良くなれないかしら」

「奥様。それは今しばらくお待ちください」

 ヘルムートは今にも雪の降り出しそうな空を見上げてそう言った。

「どうして? 何か訳でもあるの?」

「今はベルンハルト様も忙しいと思います。ゆっくりお話しされる時間をとるのであれば、冬が終わった頃が良いかと」

「冬が終わる? まだ始まったばかりよ? それ程までにお忙しいの?」

「今は準備に余念がない頃でしょう」

「準備? 何の?」

「それは、私の口から話すことではありませんね。ベルンハルト様がお話になるまでお待ちください。あの方が話されないのであれば、まだ言うべきではないというご判断でしょうから」

「む……話してもらえないのね」

「私は話すべきだと思うんですよ。奥様でいらっしゃるわけですし。ですが、ベルンハルト様にもお考えやお気持ちがありますから。それに、間もなくわかると思います」

 昨日といい今日といい、ヘルムートは口にすることのできない事情を抱えているようだが、ロイスナーに来て日の浅いリーゼロッテにはそれを知るよしもない。
 ヘルムートがこの様子ではベルンハルトから打ち明けてもらえる時を待つしかないのだが、今の様な関係でそんな日が来るのかと、見えない未来が更に黒く塗りつぶされていく。
 いつものテーブルに毛布を置いて、リーゼロッテはベルンハルトとの繋がりになるかもしれないと、さっきまで輝きを放っていた毛布に顔を埋める。
 また違う手を探さねばならない。
 そう思って見る毛布は、先程までの輝きは形を潜め、空を覆い尽くす雪雲のように濁って見えた。
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