魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
 リーゼロッテは慌てて、もう一度茂みの中へしゃがみ込んだ。仮面をつけた顔にも驚いたが、その奥に光る瞳と目があったように思う。
 心臓の音が聞いたこともない速さで、頭の中に響き渡り、耳のすぐそばで鼓動を感じていた。

「ベルンハルト・ロイエンタール伯爵! こんな所にいたのか!」

 リーゼロッテの耳元で聴こえていた鼓動が、もう一段階速くなる。
 この声は間違いなくバルタザールのものだ。

「国王陛下、何か御用でしょうか?」

「いや、私は娘を、リーゼロッテを探している。この辺りで見かけなかったか?」

 バルタザールの言葉に、リーゼロッテは覚悟を決めた。
 さっきベルンハルトと目が合ったはず。リーゼロッテの居場所はすぐにでもベルンハルトの口からバルタザールへと告げられるだろう。
 
「リーゼロッテ王女ですか? 温室の中にいらっしゃると?」

「それがわからんのだ。あれはすぐに逃げ出すからな。今日という今日は許すことはできぬ。明日、貴族達が来る前に探さなければ」

「温室の中では見かけませんでした。私もご一緒にお探しします」

 ベルンハルトの言葉に耳を疑った。
 ベルンハルトが嘘をついてまでリーゼロッテの居場所を隠す必要はない。
 目が合ったというのは、きっと思い過ごしだったのだろう。そうでなければ、今のやり取りに説明がつかない。
 
「手間をかけるな。城の者も探してはいるのだが、どうにも逃げ足が早い」

「いえ。周りの貴族達よりも一足先にお世話になっておりますので、それぐらいのことさせていただきます。さ、参りましょう」

 ベルンハルトの言葉に促され、バルタザールは元来た道を戻るつもりのようだ。
 二つの足音が微妙に重なり合いながら、リーゼロッテの隠れる茂みから遠ざかって行くのが聞こえる。
 足音がかなり遠くから聞こえるようになった頃、間違いなく二人が遠くに離れたことを確認しようと、リーゼロッテはそっと頭を上げた。そして足音の方へと視線を動かす。

 ちょうどその時、まるでリーゼロッテの行動が見えていたかのように、ベルンハルトがリーゼロッテを振り返った。
 そして、顔の中で唯一素肌の見えている口元へ人差し指を静かに当てたのが見える。その口元には、わずかに微笑みが浮かんでいた気がした。

 
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