魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
 はぁっ! リーゼロッテは忘れていた息をようやく吐き出した。
 二度目はベルンハルトと間違いなく目が合った。やはりリーゼロッテが茂みに隠れていることに気がついていた。
 それならなんで、バルタザールにそれを報告しなかったのだろう。国王に隠しごとをしたなどと、後々バレたら大問題になるのに。
 去り際に振り返ったベルンハルトの微笑みの意図が見出せなかった。

 足音が聞こえなくなり、辺りがまた静寂に包まれると、リーゼロッテはさっきまでの木の根元にもう一度戻ることにした。
 茂みの中の方が安心ではあるが、芝生の触り心地や、木の幹を背もたれにするとすっぽりと収まりの良い場所が、どうにも居心地が良い。
 今夜の寝床と決めたその場所で心を落ち着けようと、闇に包まれた夜空にくっきりと浮かんだ丸い月を見上げた。

 ベルンハルトはリーゼロッテを庇ってくれたのだろうか。会うのも初めてのはずの小娘を、庇う必要がどこにあるのだろうか。
 それとも何か他に意味があるのだろうか。

 月を見上げながらも、やはり思い起こすのはベルンハルトのこと。
 仮面を付けた伯爵のことなど、一度でも会っていれば忘れるわけがない。リーゼロッテの記憶の中に、あの姿は存在しない。
 ただ、以前お茶会で耳にした噂を思い出していた。

『ロイエンタール家の方はこの様な場にはなかなか出て来られないんですって』

『あぁ。あの仮面の伯爵ね。こうした社交の場はお嫌いな様よ』

 そんな風に他の貴族の婦人達が話した噂話。あれが、噂の仮面の伯爵。ベルンハルト・ロイエンタール伯爵か。
 他の貴族よりも一足早く城に来たと言っていたのはなぜだろうか。城に何か用があるのだろうか。
 リーゼロッテのことを知っているのだろうか。

 リーゼロッテの頭の中には、ベルンハルトについての疑問が次から次へと浮かんでは消え、堂々巡りする。そのうちにゆらゆらと心地良い揺らめきを感じ始め、リーゼロッテは今度こそ深い眠りに落ちていった。
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