魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
 瞑っているはずの瞼の上から、容赦なく降り注ぐ朝陽のシャワーの眩しさに、リーゼロッテはついに観念して目を開けた。
 木の根元に座り込んで寝たことで、身体中が固まっていて、多少の痛みを感じる。思いっきり手を伸ばし、背筋を伸ばすと、体の上から何かが滑り落ちていったのがわかった。

(何? これ。)

 滑り落ちたものを拾い上げると、それが柔らかくて温かい毛布だと気づく。間違いなくリーゼロッテがかけたものではないが、それをかけてくれる相手に心当たりもない。
 城で日常的に使うものとは少し質が違う様で、普段リーゼロッテが使っているものより温かいように感じた。
 温室の中だから心地よく感じていたが、今の季節にベッドの上でこれをかけていたら、少し熱いぐらいだろう。だけど、この温かさのお陰で、朝までぐっすり眠れたのかもしれない。
 誰かもわからない犯人に感謝をしながら、毛布を綺麗に畳み、一晩お世話になった温室を抜け出した。

 昇ったばかりの朝陽は目にはあまり優しくないが、その柔らかな温もりがリーゼロッテの体を包み込む。そんな穏やかな温もりを感じながら、早朝の静かな城の廊下を音を立てないように歩いた。
 ようやく自室に辿り着き、部屋着へと着替え、お気に入りのソファに腰を下ろす。
 木の根元の芝生の上も悪くない座り心地ではあったが、ソファの心地よさは別格だ。そんなソファに座りながら、手に取るのはさっき温室から持ち帰ってきた毛布。
 柔らかな手触りを味わうように撫でながら、毛布の持ち主を考えようとする。温室を確認にきた使用人のものだろうか。
 いや、もし使用人であればリーゼロッテを起こすだろう。それならば、誰?

 リーゼロッテの頭の中には、人差し指を口元に添えて、わかりづらく微笑んだベルンハルトの顔が浮かび上がる。
 それこそあり得ない話だ。ベルンハルトが毛布をかける理由がないし、温室からバルタザールと一緒に出て行って、もう一度戻ってくるなんて、意味がない。
 リーゼロッテは頭を左右に振りながら、浮かび上がったベルンハルトの顔を追い出そうとする。

(ダメだ。わかるわけがない)

 ふぅ。とひと息ため息を漏らすと、ソファから立ち上がり毛布を引き出しへとしまい込んだ。
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