悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
「そういえば、そこの布は何を作っているのですか?」

リリアが、テーブルの上に置かれたままだった、仕立て屋から買った布と刺繍糸のついた針を指差した。


「ああ、これはクロード様の服を作っていたのですわよ」

「く、クロード公爵の?」


答えると、信じられないと言ったようにリリアは驚いている。


「クロード公爵って、どの女性にも心を開かない、氷のような心の持ち主だって言われているじゃないですか……! そんな方の服を、なぜレベッカ様が?」


彼のあだ名である「冷徹公爵」のことだろう。

レベッカは頬を掻きながら、


「いやー、クロード様がパーソナルカラーに全然合わない服着てたので、似合う服を作らせてくださいって私からお願いしたんです。ですのよ」

「それで、公爵は了承されたのですか?」

「ええ、はい」


素直に答えると、リリアが顎に手を当て何かを考えだしてしまった。

まさか私、身分の高い方に失礼極まりないことをしていたのかしら?

確かに、親しくもないのに急に着ている服装にケチつけてるのだ。


(不敬罪? 侮辱罪? 北国に追放どころか私、断罪処刑バッドエンドになっちゃう!?)


さすがに死にたくはない。

あの綺麗な銀髪と青い瞳、クールな雰囲気に淡いグリーンは合わないでしょう、濃いネイビーや深紅が合うんですよ、とレベッカは早口で言い訳をし始めた。

しかし、リリアは顔を挙げると、レベッカに進言した。


「それは脈アリですよ、レベッカ様」

「え? 脈あり?」


真剣な瞳で何を言うのかと思ったら、どうやら脈アリだそうだ。

「クールで怖いクロード公爵は、眉目秀麗で頭も良いですが、常に他人と一線を引いています。
女性と親しくしているなんて、噂でも聞いたことはありません」


確かに、ゲーム内でもユリウス以外のキャラとはあまり親しそうではなかった。


「女性に服を作ってもらい、それを許すなんて……」

「まあ確かに、面白いことを言う、と笑われましたけど」

「わ、笑われた!?」


二人で庭を散歩した際に、レベッカの提案に呆れながら微笑んでいたクロードの姿を思い出すが、リリアはさらに驚いたようだ。


「クロード様が笑っているところなんて見たことない。そんな感情持ってるんですね」


さすがに酷くない? というセリフを言いながら、リリアが息を呑んでいる。

ヒステリックな悪役令嬢に並び、クールな冷徹公爵も他のキャラから恐れられているじゃない、とレベッカは内心呆れた。


「きっと公爵はレベッカ様のことを気にいってらっしゃると思います。舞踏会で、二人で踊られては?」

「ええ!?」


リリアの言葉に、青天の霹靂だとばかりにレベッカは驚いた。
大好きなゲームの世界に転生し、好みの中世ヨーロッパ風のドレスを着たり作ったりできるから浮かれていたが、よく考えたらここは乙女ゲームだ。

恋愛をするための世界なのである。


「でも私、ダンスなんて踊れない……」


前世で体育の成績はいつも低く、運動神経皆無な自分が、そんなすぐにダンスなんて踊れるはずがないとうつむく。

すると、リリアは名案だと言わんばかりに瞳を輝かせ、笑みを浮かべて一歩近づいてきた。


「じゃあこうしましょう! レベッカ様が私にドレスを縫ってくださる代わりに、私がレベッカ様に舞踏会のダンスをお教えします」

これなら対等でしょう? とリリアは微笑んだ。


「教えてくださるんですか?」

「はい、こう見えて私、ダンス得意なんです!」


リリアはそういうと、優雅にくるりと一回転して見せた。

軸のぶれない足さばきに、ピンクの髪がふわりと広がり、美しい所作で思わず見惚れてしまう。


「万が一クロード様が誘ってくれなくても、他の殿方相手でもダンスは踊れた方がいいですよ」


確かに、上手に踊れず転んだりしたら、誘ってくれた相手にも恥をかかせることになってしまう。


「じゃあ……ダンス、教えてもらってよろしいかしら?」

「もちろん!」


レベッカの言葉に、リリアが力強く頷いた。
悪役令嬢とヒロインは、お互いの手を取り合い微笑んだ。
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