悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
リリアと女の友情が芽生えるのは想像していなかった。
悪役令嬢として密かに、目立たないように服を作っていたいと思っていただけなのに。
目立たないようにしても、この前リリアたちに突き飛ばしていじめたと濡れ衣を着せられたように、きっと追放エンドは変わらないのだろうし。
でも、キャラと仲良くできた方が確かに楽しい。
レベッカは宮廷の廊下には人が居なかったので、リリアに教えてもらったダンスのステップを試しに踏んでみた。
窓からは陽の光が差し込み、赤い絨毯を照らす。
舞踏会で男女が踊るのはワルツだ。1、2の3、のゆったりとしたリズムで、男女向かい合い手を組み、ステップを踏む。
前世だと社交ダンスとかのイメージが近いのだろうが、体育も音楽も成績が悪かったレベッカは、リズム良くステップを踏むことさえ悪戦苦闘している。
「いち、に、のさーん、でターンして……」
頭の中でリズムを刻みながら、くるりと回ってみる。
長い赤い髪が風に舞い、コロンの香りがふわっと香る。
ダンスの自主練をしながら、ゲームの中でいちばんのメインイベントである舞踏会のシーンを思い出す。
ヒロインであるリリアが、一番好感度の高い男性キャラにエスコートされ、素敵な音楽とともに優雅に踊る、女子憧れの場面。
イケメンキャラのアップのイベントスチルも見れて、直前でセーブして何度も見たいぐらいだ。
リリアはきっとユリウスと踊るのだろう。ヒロインと正統派ヒーローの王道なダンスは、まるでディズニー映画のように荘厳のはずだ。
背筋を伸ばし、リズムに合わせてターンをする。
自分も、プリンセスのように王子様と一緒に踊りたいーー。
レベッカの気持ちに、ふと羨ましいという気持ちが芽生えた。
悪役令嬢ではなく、みんなに愛された可愛らしいヒロインのように。
「いち、にのさん、くるっと回って……っきゃあ!」
ダンスのステップを踏んでいたら、思わずヒールが滑りバランスを崩してしまった。
床にゆっくりと倒れ込む瞬間、目を瞑り痛くないように体をこわばらせた。
……しかし、一向に痛みや衝撃は伝わってこない。
恐る恐る瞳を開けると、目の前には輝く銀髪の青年が、心配そうに顔を覗き込んでいた。
「まったく。君たちは廊下で転ぶことが決まりなのか?」
呆れたように耳元で低い声で囁かれ、レベッカは小さく声を上げる。
転倒する瞬間、クロードがレベッカの腰を支え抱き抱えたようだ。
「くく、クロード様……ご機嫌よう」
急な公爵の出現と、廊下で一人くるくるダンスの練習をしていたところを見られた恥ずかしさで、咄嗟にただ挨拶をしてしまった。
どうやら、先日リリアが転んだとき然り、たまたま居合わせるのが廊下で女性が倒れる時というタイミングの悪さに、クロードも驚いているのかもしれない。
「怪我がなくて良かった」
無骨な手でレベッカの体を支え、上体を起こすと、クロードはゆっくりと距離をとった。
「ありがとうございます」
ふう、とため息をついたクロードに、レベッカは慌てて頭を下げる。
「リリア様にダンスのステップを教えてもらったのですが、難しいものですね」
恥ずかしさから、間を持たすようにレベッカが練習していた理由を話すと、クロードは眉をひそめた。
仲が悪いはずのヒロインと悪役令嬢が、ダンスを教え合うほど仲良くなっているのを不審がったのかもしれない。
クロードは何かを考えるように青い目を伏せたが、すぐにレベッカを見つめて言った。
「君が下手なわけではない。ダンスは男がエスコートするものだ。
男が上手ければ、自然と女性もステップを踏める」
温度を感じさせない淡々とした調子で、クロードはダンスについて告げる。
「そうなんですね」
確かに二人組のステップなわけだから、一人で練習してもしょうがないのかしら、とレベッカが唇をとがらすと、
「手を」
と一言、クロードが細く長い手をレベッカへと差し出してきた。
言われた通り手を出すと、彼はレベッカの手を握り締め、優しく肩を持つ。
そのまま一歩踏み込み、握った手を上に上げると、レベッカは自分の意思とは関係なく、くるりと一回転してしまった。
「あ、あれ」
体重を感じさせない自然な動き。
彼の動作に導かれるがまま、体が動き、ダンスを踊ってしまったようだ。
レベッカが驚いていると、クロードは手を離し、少しだけ口角を上げた。
「こういうことだ。良いパートナーを見つけるといい」
冷徹公爵のたまに見せる微笑みは、誰の心をも魅了する。
心臓が高鳴り、固まってしまったレベッカの手をそっと離し、会釈をすると、クロードは踵を返し歩き出してしまった。
「クロード様! この前のお洋服、もう少しで完成しますので!」
レベッカがクロードの背中に声をかけると、彼は振り向かず、後ろ手に手を振った。
銀髪を揺らしながら靴音を響かせ歩いていき、いずれ視界から消えてしまった。
颯爽とした、春風のような人だな、とレベッカは気持ちを落ち着けるために大きく息を吸った。
悪役令嬢として密かに、目立たないように服を作っていたいと思っていただけなのに。
目立たないようにしても、この前リリアたちに突き飛ばしていじめたと濡れ衣を着せられたように、きっと追放エンドは変わらないのだろうし。
でも、キャラと仲良くできた方が確かに楽しい。
レベッカは宮廷の廊下には人が居なかったので、リリアに教えてもらったダンスのステップを試しに踏んでみた。
窓からは陽の光が差し込み、赤い絨毯を照らす。
舞踏会で男女が踊るのはワルツだ。1、2の3、のゆったりとしたリズムで、男女向かい合い手を組み、ステップを踏む。
前世だと社交ダンスとかのイメージが近いのだろうが、体育も音楽も成績が悪かったレベッカは、リズム良くステップを踏むことさえ悪戦苦闘している。
「いち、に、のさーん、でターンして……」
頭の中でリズムを刻みながら、くるりと回ってみる。
長い赤い髪が風に舞い、コロンの香りがふわっと香る。
ダンスの自主練をしながら、ゲームの中でいちばんのメインイベントである舞踏会のシーンを思い出す。
ヒロインであるリリアが、一番好感度の高い男性キャラにエスコートされ、素敵な音楽とともに優雅に踊る、女子憧れの場面。
イケメンキャラのアップのイベントスチルも見れて、直前でセーブして何度も見たいぐらいだ。
リリアはきっとユリウスと踊るのだろう。ヒロインと正統派ヒーローの王道なダンスは、まるでディズニー映画のように荘厳のはずだ。
背筋を伸ばし、リズムに合わせてターンをする。
自分も、プリンセスのように王子様と一緒に踊りたいーー。
レベッカの気持ちに、ふと羨ましいという気持ちが芽生えた。
悪役令嬢ではなく、みんなに愛された可愛らしいヒロインのように。
「いち、にのさん、くるっと回って……っきゃあ!」
ダンスのステップを踏んでいたら、思わずヒールが滑りバランスを崩してしまった。
床にゆっくりと倒れ込む瞬間、目を瞑り痛くないように体をこわばらせた。
……しかし、一向に痛みや衝撃は伝わってこない。
恐る恐る瞳を開けると、目の前には輝く銀髪の青年が、心配そうに顔を覗き込んでいた。
「まったく。君たちは廊下で転ぶことが決まりなのか?」
呆れたように耳元で低い声で囁かれ、レベッカは小さく声を上げる。
転倒する瞬間、クロードがレベッカの腰を支え抱き抱えたようだ。
「くく、クロード様……ご機嫌よう」
急な公爵の出現と、廊下で一人くるくるダンスの練習をしていたところを見られた恥ずかしさで、咄嗟にただ挨拶をしてしまった。
どうやら、先日リリアが転んだとき然り、たまたま居合わせるのが廊下で女性が倒れる時というタイミングの悪さに、クロードも驚いているのかもしれない。
「怪我がなくて良かった」
無骨な手でレベッカの体を支え、上体を起こすと、クロードはゆっくりと距離をとった。
「ありがとうございます」
ふう、とため息をついたクロードに、レベッカは慌てて頭を下げる。
「リリア様にダンスのステップを教えてもらったのですが、難しいものですね」
恥ずかしさから、間を持たすようにレベッカが練習していた理由を話すと、クロードは眉をひそめた。
仲が悪いはずのヒロインと悪役令嬢が、ダンスを教え合うほど仲良くなっているのを不審がったのかもしれない。
クロードは何かを考えるように青い目を伏せたが、すぐにレベッカを見つめて言った。
「君が下手なわけではない。ダンスは男がエスコートするものだ。
男が上手ければ、自然と女性もステップを踏める」
温度を感じさせない淡々とした調子で、クロードはダンスについて告げる。
「そうなんですね」
確かに二人組のステップなわけだから、一人で練習してもしょうがないのかしら、とレベッカが唇をとがらすと、
「手を」
と一言、クロードが細く長い手をレベッカへと差し出してきた。
言われた通り手を出すと、彼はレベッカの手を握り締め、優しく肩を持つ。
そのまま一歩踏み込み、握った手を上に上げると、レベッカは自分の意思とは関係なく、くるりと一回転してしまった。
「あ、あれ」
体重を感じさせない自然な動き。
彼の動作に導かれるがまま、体が動き、ダンスを踊ってしまったようだ。
レベッカが驚いていると、クロードは手を離し、少しだけ口角を上げた。
「こういうことだ。良いパートナーを見つけるといい」
冷徹公爵のたまに見せる微笑みは、誰の心をも魅了する。
心臓が高鳴り、固まってしまったレベッカの手をそっと離し、会釈をすると、クロードは踵を返し歩き出してしまった。
「クロード様! この前のお洋服、もう少しで完成しますので!」
レベッカがクロードの背中に声をかけると、彼は振り向かず、後ろ手に手を振った。
銀髪を揺らしながら靴音を響かせ歩いていき、いずれ視界から消えてしまった。
颯爽とした、春風のような人だな、とレベッカは気持ちを落ち着けるために大きく息を吸った。