悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
ちょうど、演奏が止まり中央でのダンスが終わったタイミングだった。

音楽が静まった舞踏会の注目は、今まさに入室してきた皇太子と公爵に集まっていた。

タイプは真逆だが、二人とも眉目秀麗な青年。

頬を赤らめた女子たちの視線は彼らに釘付けになる。

そして、みんなの関心は一つである。

ユリウス王子は、誰をダンスに誘うのか。


「すごい熱気だ、盛り上がってるね」

「ああ」


ユリウスはいドレスで着飾った女子たちの視線を浴びながら、慣れているのか気にせず歩き、周りを見回して笑っている。

クロードは相槌を打ちながら、ウェルカムドリンクを持ってきたウェイターに、片手を上げ断っている。

特注だろうか、エメラルドグリーンのタキシードを着たユリウスは、誰かを探している様子だ。

程なくして一人の人物を見つけると、人波をかき分けて歩み寄ってきた。


「リリア!」


やはり目的の人物はリリアだ。


「探したよ、すごく可愛いドレスだね。君によく似合ってる」


二人の好感度はマックスなのだろう。メインルート、ユリウス王子とのダンスイベントが始まる、とレベッカは生唾を飲み込んだ。


「あ、ありがとうございます…!ユリウス様も素敵です」

「そうかな? 君に会えると思って、張り切って準備してしまったよ」


さらりと爽やかに口説き文句を言うユリウスに、隣で聞いていたレベッカの方が照れてしまう。


(す、すごい、眩しいほどのカリスマオーラと圧倒的王子様ムーブ……!
これに惚れない女子なんているの…!?)


一歩下がって二人の様子を見ているレベッカが心の中で叫んだ。

リリアは頭のキャパシティを超えたのか、あわあわと動揺している。

そんなリリアのピンク色の髪をそっと撫で、ユリウスは彼女に手を差し出した。


「よかったら、僕と踊ってくれないか? リリア・ルーベルト嬢」


ダンスを誘う時は、フルネームを呼ぶのが社交会でのマナーだ。

リリアは震える唇で返事をする。


「……もちろん、私でよければ喜んで。ユリウス・テイラー王子」


細い指でユリウスの手を握り返し、二人は微笑み合い、ダンスが行われる中心のスペースへ歩き出した。

選ばれずがっかりする声、嫉妬する視線などもあったが、レベッカは純粋に、おめでとうという気持ちが湧き上がっていた。

悪役令嬢に転生してきたことを忘れ、ゲームをやっているプレイヤーの気分で、


(最難関のユリウスルートをよくぞ完遂できたわ…!)


と感無量で拍手をしてしまった。


「……やれやれ、さすが目を引く二人だな」


気がつくといつの間にかクロードがレベッカのそばに立っていて、親友であるユリウスの後ろ姿を見送っていた。


「クロード様、その服着てくださったのですね!」


彼が来ているダークネイビーのタキシードは、レベッカが夜な夜な針を進めて作った服だ。

やはり彼の顔立ちにも肌の色にも合っている。男前が何割も増しているとレベッカはガッツポーズをとった。


「サイズもぴったりだし、着心地も良い。改めて礼を言うよ」

「いえ、よかったです」


レベッカが頷くと、クロードは口角を上げる。

いつもさらさらで風に揺れる銀髪は、今日はしっかりと前髪を上げ固められており、男らしさと高貴さがさらに際立っていた。


「今日の主役はユリウスとリリアだな」


広間の中心で、ヴァイオリンの音に合わせてゆったりと踊り出した二人は、本当に王子様とお姫様のようだった。

ラベンダー色のフレアドレスの裾がふんわりと広がり、ローヒールのパンプスなら踊りやすそうである。


「お似合いのお二人ですわ。ユリウス様の今日のお召し物も素敵」


レベッカが二人を見つめながら言うと、隣のクロードが小さく咳払いをした。


「実は俺が助言したんだ。ユリウスには、エメラルドグリーンのようなパステルカラーが似合うとな」


え、とレベッカが驚き背の高いクロードを見上げると、彼は目を細める。


「彼は、イエベ春なのだろう?」


この前庭を二人で散歩した際、早口で捲し立てた講釈を、覚えていてくれていた。


「そう、そうなんですのよ! さすがですわ、クロード様!」


レベッカが嬉しくなって満面の笑みで褒めると、クロードは誇らしげに小さく頷いた。
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