悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
リリアが自分の作ったラベンダー色のフレアドレス、クロードがダークネイビーのタキシードを着て、とても大切な舞踏会に参加してくれたのが嬉しかった。
荘厳で豪華なドレスを縫い、それが似合う美しい人たちに着てもらえるのは、服飾専門学校へ通っていたアパレル
店員の冥利に尽きると、レベッカは感動していた。
華やかな乙女ゲームの世界に来たけれど、自分は恋愛をしなくてもいい。
大好きなキャラたちに、自分の作った服を着てもらえ、喜んでくれるならそれでいい。
心からそう思ったのだ。
ただ一つ、気になることがある。
今横に立っている冷徹公爵は、自分のことを、どう思っているのだろう。
滅多に人前で笑わない、何を考えているかわからないと恐れられている彼。
しかし庭を散歩した時も、廊下ですれ違った時も、夕方の図書館でも、その表情は柔らかく感じたから。
「――クロード様は、誰かと踊らないんですか?」
鎖骨を出したスクエア型の襟元に付けたネックレスを指先でいじりながら、レベッカは隣に立つクロードに問いかけた。
ハープの音色が響き渡り、目の前では男女が優雅にダンスのステップを踏み、右に左に移動していく。
「あいにく、ダンスが苦手で」
背筋をしゃんと伸ばし、凛としたタキシード姿のクロードは、一言で踊る気は無いと一蹴した。
そうですか、と頷きながら、頭の端に残った違和感を感じる。
レベッカは唇を引き締め、恐る恐る指摘した。
「嘘、ですよね。この前廊下で転んだ私を支えて、優雅に踊れていたではないですか」
一人でステップの練習をしていたレベッカが転んでしまい、落ち込んでいた時、ダンスはエスコートする男が上手ければ問題ないと、軽やかにターンを促したクロード。
あれは、一朝一夕で身につくものではない。幼い頃から、名家のライネス家出身として体に染み込んでいるのかもしれない。
きっと誰とも踊りたくない言い訳に使っているのだろう。
タキシードと同じ、ダークネイビーの瞳が、レベッカを見下ろした。
レベッカの言葉の裏を探るような、まっすぐな視線。
「わ、私、リリア様に教えてもらってダンスを覚えたんですが」
もじもじと口ごもり、自分の赤いウェーブの長い髪を撫でながら、レベッカは続ける。
可愛いドレスを、かっこいいドレスを着てほしくて、毎日自分の時間を切り詰めて針を進めていた。
素敵な舞踏会になるよう願いを込めて。
「毎日授業後は部屋にこもって服ばっか作っていたんで、誰からも誘われなかったんです……」
しかし、優しいヒロインが、悪役令嬢にドレスのお礼にダンスを教えるという、ゲーム上ありえない展開のおかげで、レベッカの気持ちは変わってしまった。
私も、誰かと舞踏会でダンスを踊りたい。
そしてそれは、庭で、廊下で、図書室で微笑みかけてくれた、彼が良い。
「披露する機会がなくて、もったいないな、なんて……」
最後は消え入りそうな声だった。
きっと今の自分は、髪の色と同じぐらい顔が赤くなってしまっているのだろう。
クロードは照れて俯いてしまったレベッカをじっと見つめると、正面に立った。
「すまない、女性にそこまで言わせてしまうなんて」
全ての意味を汲んだクロードは、手のひらをレベッカへと向けて差し出す。
そして、優雅に問いかけた。
「俺と踊ってくれないか? レベッカ・エイブラム嬢」
フルネームで呼び誘うのが、社交界の礼儀だ。
「……喜んで、クロード・ライネル公爵」
そうして、誰からも嫌われていた悪役令嬢は、そっと冷徹公爵の手を取った。
荘厳で豪華なドレスを縫い、それが似合う美しい人たちに着てもらえるのは、服飾専門学校へ通っていたアパレル
店員の冥利に尽きると、レベッカは感動していた。
華やかな乙女ゲームの世界に来たけれど、自分は恋愛をしなくてもいい。
大好きなキャラたちに、自分の作った服を着てもらえ、喜んでくれるならそれでいい。
心からそう思ったのだ。
ただ一つ、気になることがある。
今横に立っている冷徹公爵は、自分のことを、どう思っているのだろう。
滅多に人前で笑わない、何を考えているかわからないと恐れられている彼。
しかし庭を散歩した時も、廊下ですれ違った時も、夕方の図書館でも、その表情は柔らかく感じたから。
「――クロード様は、誰かと踊らないんですか?」
鎖骨を出したスクエア型の襟元に付けたネックレスを指先でいじりながら、レベッカは隣に立つクロードに問いかけた。
ハープの音色が響き渡り、目の前では男女が優雅にダンスのステップを踏み、右に左に移動していく。
「あいにく、ダンスが苦手で」
背筋をしゃんと伸ばし、凛としたタキシード姿のクロードは、一言で踊る気は無いと一蹴した。
そうですか、と頷きながら、頭の端に残った違和感を感じる。
レベッカは唇を引き締め、恐る恐る指摘した。
「嘘、ですよね。この前廊下で転んだ私を支えて、優雅に踊れていたではないですか」
一人でステップの練習をしていたレベッカが転んでしまい、落ち込んでいた時、ダンスはエスコートする男が上手ければ問題ないと、軽やかにターンを促したクロード。
あれは、一朝一夕で身につくものではない。幼い頃から、名家のライネス家出身として体に染み込んでいるのかもしれない。
きっと誰とも踊りたくない言い訳に使っているのだろう。
タキシードと同じ、ダークネイビーの瞳が、レベッカを見下ろした。
レベッカの言葉の裏を探るような、まっすぐな視線。
「わ、私、リリア様に教えてもらってダンスを覚えたんですが」
もじもじと口ごもり、自分の赤いウェーブの長い髪を撫でながら、レベッカは続ける。
可愛いドレスを、かっこいいドレスを着てほしくて、毎日自分の時間を切り詰めて針を進めていた。
素敵な舞踏会になるよう願いを込めて。
「毎日授業後は部屋にこもって服ばっか作っていたんで、誰からも誘われなかったんです……」
しかし、優しいヒロインが、悪役令嬢にドレスのお礼にダンスを教えるという、ゲーム上ありえない展開のおかげで、レベッカの気持ちは変わってしまった。
私も、誰かと舞踏会でダンスを踊りたい。
そしてそれは、庭で、廊下で、図書室で微笑みかけてくれた、彼が良い。
「披露する機会がなくて、もったいないな、なんて……」
最後は消え入りそうな声だった。
きっと今の自分は、髪の色と同じぐらい顔が赤くなってしまっているのだろう。
クロードは照れて俯いてしまったレベッカをじっと見つめると、正面に立った。
「すまない、女性にそこまで言わせてしまうなんて」
全ての意味を汲んだクロードは、手のひらをレベッカへと向けて差し出す。
そして、優雅に問いかけた。
「俺と踊ってくれないか? レベッカ・エイブラム嬢」
フルネームで呼び誘うのが、社交界の礼儀だ。
「……喜んで、クロード・ライネル公爵」
そうして、誰からも嫌われていた悪役令嬢は、そっと冷徹公爵の手を取った。