悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
レベッカの心臓は、高鳴るというどころではないほどに暴れ鳴っていた。

クロードをダンスに誘ってほしくて催促してしまったけれど、ダンスを習ったとはいえ付け焼き刃だし、マーメイ
ドドレスのように大きく足を開けないデザインの服で踊れるのか心配で、とにかく頭の中は混乱状態だった。

曲の合間、広間の端の空いたスペースに、レベッカの手を引きクロードが歩み出た。

周囲には、冷酷公爵と悪役令嬢のコンビが意外で驚いている者もいたが、ほとんどの人は広間の中心で何曲も踊っているリリアとユリウスに注目しており、目立たなかったのが幸いだった。

ゆっくりと、ビオラの旋律が流れる。

向かい合い、右手をクロードと繋ぎ、左手はクロードの右肩を掴んだレベッカが、大きく息を吸う。

そんなガチガチに緊張したレベッカを見て、前髪を上げたクロードが低い声で呟く。


「腰が引けている、緊張しているのか」

「そりゃもちろん……男性と踊るなんて初めてですし」


言葉の途中で曲は始まってしまった。

頭の中ではリリアと特訓した、ワン、ツー、スリーと初心者でもできる簡単なステップを繰り返しているが、どうもおぼつかない。


「――下を向かない」


クロードは手を握るレベッカの耳元でそっと囁くと、腰をしっかりと掴んだ。


「!」


上半身が密着する形になり、驚いたレベッカは思わず顔を上げる。


「そう……俺の目を見て」


深青の瞳がレベッカの深紅の瞳をまっすぐに見つめる。

体を離し猫背になってしまっていたが、その言葉でレベッカの背筋は伸び、目線が上がった。

男女のダンスは本来ならばこれぐらい密着するものらしい。優しく力を入れて促され、ゆっくりとステップが踏めるようになった。


「上手だよ」


褒められた嬉しさと、顔が近い恥ずかしさで、レベッカは顔が熱くなるのを感じた。

柔らかなハープの音色が鼓膜を揺らす。

黒いレースのマーメイドドレスの裾が、美しく弧を描く。

彼の吐息の音も、心臓の音も、至近距離で感じる。

徐々に緊張がほぐれ、レベッカは踊ることが楽しくなり、自然と笑みが溢れた。

その様子を見て、クロードもそっと目を細める。


ずっと、この時間が続けば良いのに。

豪華なシャンデリアの光に照らされた、年に一度の特別な夜。


エスコート上手な彼のおかげで、一度も転んだりよろけたりせず、初めてのダンスを一曲踊りきることができた。
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