悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
しかし、レベッカの悪い噂は瞬く間に広がった。
リリアが次の日、大げさに足首に包帯を巻きクラスに登校したからだ。
そして、休み時間の度にユリウスが大丈夫かとリリアの怪我を心配する。
『リリアとレベッカが二人でクラスを出て行った後、リリアが怪我して戻ってきた』という事実だけを聞けば、クラスメイトたちがレベッカが悪者だと思うのは自明の理だろう。
背筋を伸ばし椅子に座り、次の授業の教科書を読み予習をしているレベッカを、周りの生徒はヒソヒソと悪口を言っていた。
ユリウス様に気に入られているリリアが気に食わないんだ、とか、広い領土を持つ名家出身だから調子に乗っている、とか。
彼女の気の強い性格も相まって、噂はどんどん尾ひれがついていく。
わざと誤解を解かないリリアにも、そんなリリアを文字通り王子様のように守るユリウスにも、がっかりした。
放課後、本を忘れたため教室へ戻ると、夕焼けの照らす窓際の席で、レベッカが一人椅子に座っていた。
何かを考えているような、暗い横顔。
ドアを開けた音に気が付き、俺の方にゆっくりと顔を向ける。
「クロード様、忘れ物ですか?」
ああ、と頷き、机の中に入れていた本を取り出して手に持つ。
レベッカのどこか憂いを帯びた様子に、すぐに去るのは気が引けて、そっと近づいた。
「誤解だと言えばいいんじゃないか、リリアの怪我の件」
端的にそう声をかけると、真紅の瞳がゆっくりとこちらを向いた。
「噂は気にしませんわ。わたくしは、何も恥ずかしいことはしておりませんもの」
「しかし……」
では俺がどうにかしようか、と言おうとしたところで、レベッカはそっと手を差し出した。
「それより、こちらをお返しいたします」
この前ベンチで泣いていた時に彼女に渡したハンカチだった。
綺麗に洗って干したのだろう、洗剤の良い香りがする。
「余計なお世話かと思いましたが、角が少しほつれていたので、繕いがてら刺繍を入れてみました」
もし嫌なら、すぐにほどきますとレベッカが言うのでハンカチの角を撫でると、刺繍糸で俺の名前である「Claude.L」と縫われていた。
まるで服飾店に依頼したような、丁寧な出来である。
「ありがとう。刺繍、綺麗だな」
ただの無地のハンカチに自分の名前が入り、それだけで特別なものになる気がした。
レベッカはニコリと笑うと、赤い口紅をつけた唇を開く。
「クロード様が本当に『冷徹公爵』ならば、泣いてる女子にハンカチなんて差し出すかしら」
巷で言われている不名誉な二つ名を、彼女も知っていたようだ。
「ほら、噂はあてにならないでしょう?」
だから、私のことも気にしなくて良い、と言うように。
「…そうだな」
同級生の女子に手を上げたというよくない噂も、彼女は跳ね返してみせると思ったのだろう。
「俺は君の味方だ。何かあったら相談してくれ」
「ふふ、心強いですわ、クロード様」
レベッカは誤解されやすいが、気高く、強い人だ。
ただ、思ったことをうまく口にできない、不器用な部分は、「役立たずの三男坊」、「王子の腰巾着」という呪いにかかった、俺と少し似ているのかもしれない。
リリアが次の日、大げさに足首に包帯を巻きクラスに登校したからだ。
そして、休み時間の度にユリウスが大丈夫かとリリアの怪我を心配する。
『リリアとレベッカが二人でクラスを出て行った後、リリアが怪我して戻ってきた』という事実だけを聞けば、クラスメイトたちがレベッカが悪者だと思うのは自明の理だろう。
背筋を伸ばし椅子に座り、次の授業の教科書を読み予習をしているレベッカを、周りの生徒はヒソヒソと悪口を言っていた。
ユリウス様に気に入られているリリアが気に食わないんだ、とか、広い領土を持つ名家出身だから調子に乗っている、とか。
彼女の気の強い性格も相まって、噂はどんどん尾ひれがついていく。
わざと誤解を解かないリリアにも、そんなリリアを文字通り王子様のように守るユリウスにも、がっかりした。
放課後、本を忘れたため教室へ戻ると、夕焼けの照らす窓際の席で、レベッカが一人椅子に座っていた。
何かを考えているような、暗い横顔。
ドアを開けた音に気が付き、俺の方にゆっくりと顔を向ける。
「クロード様、忘れ物ですか?」
ああ、と頷き、机の中に入れていた本を取り出して手に持つ。
レベッカのどこか憂いを帯びた様子に、すぐに去るのは気が引けて、そっと近づいた。
「誤解だと言えばいいんじゃないか、リリアの怪我の件」
端的にそう声をかけると、真紅の瞳がゆっくりとこちらを向いた。
「噂は気にしませんわ。わたくしは、何も恥ずかしいことはしておりませんもの」
「しかし……」
では俺がどうにかしようか、と言おうとしたところで、レベッカはそっと手を差し出した。
「それより、こちらをお返しいたします」
この前ベンチで泣いていた時に彼女に渡したハンカチだった。
綺麗に洗って干したのだろう、洗剤の良い香りがする。
「余計なお世話かと思いましたが、角が少しほつれていたので、繕いがてら刺繍を入れてみました」
もし嫌なら、すぐにほどきますとレベッカが言うのでハンカチの角を撫でると、刺繍糸で俺の名前である「Claude.L」と縫われていた。
まるで服飾店に依頼したような、丁寧な出来である。
「ありがとう。刺繍、綺麗だな」
ただの無地のハンカチに自分の名前が入り、それだけで特別なものになる気がした。
レベッカはニコリと笑うと、赤い口紅をつけた唇を開く。
「クロード様が本当に『冷徹公爵』ならば、泣いてる女子にハンカチなんて差し出すかしら」
巷で言われている不名誉な二つ名を、彼女も知っていたようだ。
「ほら、噂はあてにならないでしょう?」
だから、私のことも気にしなくて良い、と言うように。
「…そうだな」
同級生の女子に手を上げたというよくない噂も、彼女は跳ね返してみせると思ったのだろう。
「俺は君の味方だ。何かあったら相談してくれ」
「ふふ、心強いですわ、クロード様」
レベッカは誤解されやすいが、気高く、強い人だ。
ただ、思ったことをうまく口にできない、不器用な部分は、「役立たずの三男坊」、「王子の腰巾着」という呪いにかかった、俺と少し似ているのかもしれない。