悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
それから俺とレベッカは、よく放課後に教室で話をするようになった。
冷徹公爵と、気の強い令嬢は、普段クラスメイトとはあまり馴染まず、休憩時間も本を読んだり予習をしていたが。
皆が寮へと戻った夕方に、約束したわけではないが二人きりになる。
最初俺は律儀に、わざと本や教科書やペンを忘れ、取りに行くふりをしていたのだが、
「随分うっかり屋さんですわね、クロード様は」
と全てを見透かしたレベッカがくすりと笑うものだから、それ以降は普通に彼女の隣の席に座るようにした。
話す内容は他愛もないことだ。
お互いの家族や、子供の頃好きだったおとぎ話、城下町に新しくできたケーキ屋が評判だとか、食事の後の授業は眠くなるから、どうやって眠気を覚ましているかとか。
上品に指を揃え、くすくすと笑う彼女が見たくて、口下手な俺がつい話しすぎてしまうことも多かった。
「クロード様は、なぜそんなにご自分に自信がないのですか?」
一度、彼女が俺の核心を突いてきたことがある。
家柄もよく、勉強もでき、ユーモアもあるというのに、どこか他人に壁を作っていていつも表情が暗いのはなぜか、という質問だった。
「……俺は三男で、年の離れた兄二人が家は継ぐから、役立たずとずっと言われて育ってきたからな」
思わず、心の中に長年閉じ込めていた想いを吐き出してしまった。
誰にも言ったことがない、人生に影を落とす言葉。
すぐに話したことを後悔した。
情けない。彼女から慰めたり励ましたりしてもらえるのを期待したのか?
しかしレベッカは、俯いた俺を見ると一言、
「羨ましいですわ」
と言った。
顔を上げると、真紅の瞳は真っ直ぐに俺を見つめていた。
「本当に好きな人と恋愛して、好きなことを仕事にして、自由に生きていけるではないですか」
凛とした声で紡ぐ言葉が、俺の胸の中心を確実に射抜いた。
「――そう、かな」
二の句が告げない。
夕焼けが差し込む教室で、俺の人生を全肯定する言葉をいとも簡単に放った彼女は、優しく微笑んだ。
「ええそうですよ。私はエイブラム家の一人娘ですから。将来は家督を継ぎ、当主としての役目を果たし、より良い身分の殿方と結婚しなければいけないのです。私の意思とは、関係なく」
眉を下げ、諦めに似た感情を抱いている。
長いまつ毛が、彼女の白い頬に影を落とす。
――だから、ユリウスか。
彼女がユリウスのことをいつも目で追っているのは知っていたし、ユリウスに好かれているリリアを気に食わないのも察していた。
皇太子と婚約できれば、皇族の仲間入りだ。未来永劫、エイブラム家は没落や貧困とは無縁になるに違いない。
しかし、それも彼女の使命感から来る感情だったのかもしれない。
「どうかご自分の運命を嘆かず、楽しんでくださいませ」
「……ああ、そうだな」
頷くばかりで、気の利いたことが言えない自分に嫌気が差す。
生まれながらに挫折していた俺の人生を、自由だと言ってくれたのが、心の底から嬉しかった。
「もうすぐ舞踏会ですわね。
クロード様は、どなたか令嬢と踊られるのですか?」
「あいにく俺はダンスは苦手で。人混みも」
「あら、私と同じですわね」
教室に二人きり。
そう微笑んだ彼女の横顔から、俺はずっと、目が離せなかった。
冷徹公爵と、気の強い令嬢は、普段クラスメイトとはあまり馴染まず、休憩時間も本を読んだり予習をしていたが。
皆が寮へと戻った夕方に、約束したわけではないが二人きりになる。
最初俺は律儀に、わざと本や教科書やペンを忘れ、取りに行くふりをしていたのだが、
「随分うっかり屋さんですわね、クロード様は」
と全てを見透かしたレベッカがくすりと笑うものだから、それ以降は普通に彼女の隣の席に座るようにした。
話す内容は他愛もないことだ。
お互いの家族や、子供の頃好きだったおとぎ話、城下町に新しくできたケーキ屋が評判だとか、食事の後の授業は眠くなるから、どうやって眠気を覚ましているかとか。
上品に指を揃え、くすくすと笑う彼女が見たくて、口下手な俺がつい話しすぎてしまうことも多かった。
「クロード様は、なぜそんなにご自分に自信がないのですか?」
一度、彼女が俺の核心を突いてきたことがある。
家柄もよく、勉強もでき、ユーモアもあるというのに、どこか他人に壁を作っていていつも表情が暗いのはなぜか、という質問だった。
「……俺は三男で、年の離れた兄二人が家は継ぐから、役立たずとずっと言われて育ってきたからな」
思わず、心の中に長年閉じ込めていた想いを吐き出してしまった。
誰にも言ったことがない、人生に影を落とす言葉。
すぐに話したことを後悔した。
情けない。彼女から慰めたり励ましたりしてもらえるのを期待したのか?
しかしレベッカは、俯いた俺を見ると一言、
「羨ましいですわ」
と言った。
顔を上げると、真紅の瞳は真っ直ぐに俺を見つめていた。
「本当に好きな人と恋愛して、好きなことを仕事にして、自由に生きていけるではないですか」
凛とした声で紡ぐ言葉が、俺の胸の中心を確実に射抜いた。
「――そう、かな」
二の句が告げない。
夕焼けが差し込む教室で、俺の人生を全肯定する言葉をいとも簡単に放った彼女は、優しく微笑んだ。
「ええそうですよ。私はエイブラム家の一人娘ですから。将来は家督を継ぎ、当主としての役目を果たし、より良い身分の殿方と結婚しなければいけないのです。私の意思とは、関係なく」
眉を下げ、諦めに似た感情を抱いている。
長いまつ毛が、彼女の白い頬に影を落とす。
――だから、ユリウスか。
彼女がユリウスのことをいつも目で追っているのは知っていたし、ユリウスに好かれているリリアを気に食わないのも察していた。
皇太子と婚約できれば、皇族の仲間入りだ。未来永劫、エイブラム家は没落や貧困とは無縁になるに違いない。
しかし、それも彼女の使命感から来る感情だったのかもしれない。
「どうかご自分の運命を嘆かず、楽しんでくださいませ」
「……ああ、そうだな」
頷くばかりで、気の利いたことが言えない自分に嫌気が差す。
生まれながらに挫折していた俺の人生を、自由だと言ってくれたのが、心の底から嬉しかった。
「もうすぐ舞踏会ですわね。
クロード様は、どなたか令嬢と踊られるのですか?」
「あいにく俺はダンスは苦手で。人混みも」
「あら、私と同じですわね」
教室に二人きり。
そう微笑んだ彼女の横顔から、俺はずっと、目が離せなかった。