悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
「一体どういうことだ、ユリウス! 追放令だなんて…!」

舞踏会は、とんでもない結末を迎えた。

興を削がれた生徒たちは次々と解散していき、各々の寮の部屋に戻っていった。

控え室にてユリウスと二人きりになった俺は、友人の暴挙を問いただす。


しかし、俺の言うことなどどこ吹く風で、ユリウスは肩をすくめている。


「リリアから、レベッカの話はよく聞いていた。いつも睨まれて、やることなすこと、突っかかって来るのが怖かったって」


小柄で華奢で、可憐なリリア。

自分の愛らしさを自覚した上で、意中の男に、気に食わない女のことを吹聴していたのだろう。


「レベッカはリリアに、貴族としての礼儀を教えていただけだ…!」


くだらない恋の駆け引きにまんまと引っかかり、権力を自分の私利私欲のために使うユリウスが信じられなかった。

しかし、ユリウスは俺の忠告を、煩わしいとため息をつく。


「クロード、お前……レベッカの肩を持つのか?」


眉を寄せて目を細めたその表情は、温厚な彼が怒っている時のものだった。

思わず息を呑む。

沈黙を肯定と受け取ったのか、


「そうか、ならもうお前とは、金輪際口を聞かない」


ユリウスは冷たくそう言うと、俺に背を向けて歩き出した。

口を聞かないなんて、子供染みたセリフだ。

しかし、たちまち俺の背中からは冷や汗がどっと溢れ出る。


『必ずやユリウス王子と仲良くなりなさい、クロード』

『それが我がライネス家のためになるのだから……!』

『学校で王子のご機嫌取るだけでいいなんて羨ましい、俺と人生変わってほしいよ』


両親と、二人の兄たちからの呪いの言葉が脳裏を埋め尽くす。

何かを言わなければ、と思うが、気の利いた言葉が思い浮かばない。


「俺は………」

園庭のベンチで、濡れ衣だと泣いていたレベッカ。
教室で他愛のない話をした。俺は自由で羨ましいと、微笑んでくれた。


「……悪かった、機嫌を直してくれ、ユリウス」


ひねり出したのは、情けない、皇太子へのご機嫌取りの言葉。

この状況で、自分と自分の家柄への保身しかできないのが、酷く惨めだ。

ユリウスは振り返ると、頭を下げた俺を見つめてきた。

反省している様子がわかったのか、軽く肩を叩く。


「わかればいいんだ。
 言いすぎたよクロード、ごめんな!」

底抜けに明るい笑顔で、俺に笑いかける。


「それより、俺とリリアの結婚式に、友人代表でスピーチを読んでくれないか? 俺たち、親友だろう?」


もう彼の頭の中には、追放した令嬢の存在などすっかり消えていて、自分と最愛のリリアの華やかな結婚式のことでいっぱいのようだ。


「……ああ、もちろん」


ユリウスはただの友人ではない。

この国の次期皇帝は、一言でその一族を没落させるほどの権力を持っている。


彼を利用しようとした俺の浅ましさが、今まさに俺の首を絞めていた。
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