悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
そして、悪い予感は的中した。


「俺、レベッカのことが好きかもしれない」


悪い予感ばかり当たるものだ。

人気の無い校舎裏、木陰の下で、まるで秘密を共有するかのように、ひそひそ話でユリウスは告げた。


「誰にも言わないでくれよ、クロードだけに言うんだ」


唇前で人差し指を立て、恥ずかしそうに笑うユリウス。

金髪が風に揺れる。

勉強会の帰り道、俺が大声をあげ二人の会話を邪魔したおかげで、リリアとレベッカは口喧嘩をすることはなかったようだ。

レベッカの悪い噂が流れることはなく、リリアが俺を好きになることもなかった。


なのに。


バイオリンが弾けるというのが、ユリウスの琴線に触れたのか知らないが、次の日から、休み時間ユリウスはレベッカに積極的に話しかけにいった。

凛としたきつめの美人であるレベッカが、嬉しそうに頬を綻ばせて、ユリウスに返答していた。

リリアは、最初こそ面白くなさそうに無表情で二人の様子を見ていたが、すぐに次のターゲットを決めたのか、侯爵相手に愛想を振り撒き始めていた。

俺は教室の端で、その様子を見ているだけだ。


「……何でだ」


ポツリと、言葉がこぼれ落ちる。

俺は恥ずかしそうに好きな相手を告白するユリウスを睨みつけ、


「君は、リリアが好きなんだろう……!」


思わず前のめりになり、彼の襟元を掴んでしまった。
何故わざわざレベッカを選ぶんだ。

この国の皇太子である君は、どんな女子を選んだってみな喜んで受け入れるだろうに。

なぜ彼女なんだ。


俺が、おめでとう応援するよユリウス、と言うと思ったのか?

「お、おい、どうしたんだよ。
 俺、リリアを好きだなんて言ったことないだろ」

友人に急に詰め寄られ、怒るどころか呆気に取られたユリウスは、至極当然のことを言った。


一度目の人生で、ユリウスは舞踏会でリリアにプロポーズをした。

二度目では、俺がリリアと婚約した。

そして三度目の今回は、ユリウスはレベッカを好きだという。


勉強会の帰り道の、廊下での行動だけだ。
その一瞬の出来事が、こんなに人生を変えるというのか?


下唇を噛み、掴んだ襟元を離す。

そうだな、という同意のセリフしか出て来ず、顔を伏せるだけだった。


*  *  * 

それから、底抜けに明るく、誰からも好かれる星のもとに生まれた皇太子の行動は早かった。


「舞踏会で、レベッカをダンスのパートナーに誘おうと思って」

「ダンスが上手く踊れたら、舞踏会の最後にプロポーズするって決めた」

「プロポーズを受けてもらえたぞ、良かった!」

「俺とレベッカの結婚式に、親友のお前がスピーチを読んでくれないか?」


『一度目』で、リリアにやったことと同じことを、ユリウスはレベッカにしたのだ。


ああ、そうか。そうだな。

どの言葉にも、そう答えるだけの、王子の腰巾着。


それからのことはよく覚えていない。


ただ、髪の色と同じ赤いドレスで、ユリウスにエスコートされてダンスを踊るレベッカは美しかった。

ユリウスに手を取られ、プロポーズをされた時に、頬を伝った嬉し涙は綺麗だった。

頬を染め、真紅の瞳を潤ませて、ユリウスを見つめるその眼差しの先に、俺はいなかった。


*  *  *


皇太子と皇太子妃の結婚式。

学園中の生徒や貴族が集まり、それは盛大に式は盛り上がった。

白いタキシードを着たユリウスの横で、美しく着飾ったレベッカが優しく手を振っている。

俺は、友人代表として書いたスピーチ用の手紙を破り捨て、背を向けた。


「くそっ………!」


潤んだ瞳でユリウスを見つめるレベッカなど見たくない。

君の隣には俺が立ちたい。

公爵家の地位だとか、そんなものはいらない。望みはそれだけなのに。



* * *


瞼を開く。

「クロード。勉強会も終わったし、ちょっと気晴らしに散歩でもしよう」


園庭のベンチに座る俺、起こすユリウスの声。

明るくて朗らかな、人望の厚い皇太子。俺の親友。

今はどうにも憎くてたまらない、その笑顔。

お前にレベッカは渡さない。

拳を固く握り、奥歯を噛み締めた。


「……ああ、そうだな」


4度目のループに、どうやったらここから抜け出せるのか、気が狂いそうだった。
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