悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
園庭のベンチに座り、ぼんやりと空を見上げた。

白い小鳥が二匹、隣の大木に止まり、小さくさえずっている。

――ああ、この場面は4度目だけど、鳥がいるのには初めて気がついたな。

多大なるストレスで疲弊し、神経をすり減らした俺は、そんなどうでもいいことを考えた。


「クロード、随分疲れているな。
 勉強ばっかりして、ろくに寝てないんじゃないか」


ユリウスは心配して声をかけるが、生返事しかできない。

ぼんやりしていたら、また校舎の奥の廊下で、レベッカとリリアの喧嘩が始まってしまう。


もう何度も見たくない。


「おい、部屋に戻るぞクロード」


虚ろな表情の俺を促し、ユリウスが校舎の方へ歩き出したのを見つめる。

女子の喧嘩を、俺たちが気が付かなければいいんじゃないか。


「……ユリウス、校舎のからじゃなくて、校門を出て外から寮に戻ろう」


立ち上がり、前を歩く背中に提案する。


「ん? なんでだい」

「こんな天気の良い日だ、もう少し陽の下を歩きたいと思って」


俺の言葉に、いい提案だとユリウスは笑う。


「確かにクロードの言うとおりだ、散歩するか」


よかった。提案はたいしたことではないが、これで変えられる。

何も見たくない。何も気が付かない。

発言力の高いユリウスが何も気が付かなければ、誰と恋に落ちることもなく、レベッカも追放されることもないだ
ろう。

勉強会の感想を言いながら、俺はこのまま無事に部屋に戻れる心の中で祈っていた。


しかし。


「ぐすっ……ううっ……」


小さく聞こえた、聞き覚えのある女子の泣き声に、背筋が凍った。


リリアだ。


振り向かなくてもわかる。

なぜ彼女が園庭にいるのか考えるよりも先に、隣のユリウスが泣き声に気がつき振り返らないように画策した。


「ユリウス、そういえば今日は寮の掃除当番だったろう、急いで戻ろう」


園庭を足早で去るように声をかけると、ユリウスも頷き早歩きになった。

しかし、


「痛ぁい……!ぐすっ…」


泣き声はさらに大きくなり、ユリウスはその声に振り返ってしまった。

園庭の真ん中、足首を押さえたリリアがうずくまっていたのだ。


「リリアじゃないか、どうしたんだ?」


俺の必死の演技も虚しく、リリアの姿に気がついたユリウスはすぐに彼女に駆け寄った。


「ユリウスくん……」


大きな瞳を涙で潤ませて、上目遣いで見上げるリリア。

足を痛めているということは、どうやらレベッカと言い争いをし、自分でよろけて転んだ後、園庭を通って女子寮に戻ろうとしていたらしい。


「怪我しているのか? 一体どうしたんだ?」


ユリウスの問いに、


「れ、レベッカ様が……!」


それだけ言って、リリアは唇をつぐみ、ますます激しく泣き濡れるのだった。


狡いやり方だ。それではレベッカが仕掛けたと誰でも誤解をする。


性悪女め。


「そうか。じゃあ、医務室に連れてくから、俺の肩につかまって」


どうやら全てを察したらしい、察しの悪いユリウスは、華奢なリリアに手を差し出し、体を支えた。

近くで密着し、照れたようにはにかむリリア。


「部屋に先に帰ってくれクロード。……って、なんて表情してるんだ」


一連の二人の行動を見て、きっと俺は酷い顔をしていたのだろう。

失望と、嫌悪と、疲労と、諦めと。

繰り返される茶番に、周囲の人間全員嫌いになりそうだ。
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