悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
無限に続くやり直しの人生に、うんざりしていた。

何をやったって、俺の望む運命になどならない。

悩みがあるなら言えよ、と、泣いていた俺へ慰めの言葉をかけるユリウスに、生返事をする。


廊下の奥を見ると、今まさにリリアが転ぶ瞬間だった。

レベッカは突き飛ばしていないし、リリアは勝手に転んだだけだ。

なのに悪い噂が流れて、レベッカは放課後の教室でひとりぼっちで座っている。

それを慰めて仲良くなったところで、リリアとユリウスの結婚や、レベッカとの別れは避けられない。

何度繰り返しても同じだ。

不毛な女子同士の争いに、もう割って入ることもせず、俺はぼんやりと立ちすくんでいた。

しかし、初めて見る光景が映った。


「リリア様、今履いてらっしゃる靴は、ヒールが高く細いので、転倒しやすくて危険です」


恋しい声が、優しくリリアに語りかけている。


「ポインテッドトゥパンプスになってます。
これならリリア様に似合いますし、きっともう転んだりはしないかと」


訝しげに正面の女子二人を見ると、赤い髪の少女が、新品の靴をリリアに差し出していた。

丁寧に、靴の構造や長所まで告げて。


「お詫びと言ってはなんですが、よかったら受け取ってもらえませんか?」


……こんなのは知らない。


初めて見たその情景に、俺は息を呑む。

同じ髪、同じ瞳、同じ声の令嬢。

人生をなん度もやり直したいと思う、夢に見るほど愛しい姿。

新品の靴をレベッカから受け取ったリリアは、足を引きずりながらユリウスと医務室へと向かった。

それを見送り、満足げに頷いたレベッカが振り返りーーこちらを向いた。

深紅の二つの瞳と、目が合う。

レベッカから行動を起こし、事態が変わるという信じられない出来事に、思わず声が漏れ出てしまった。



「レベッカ。君は……だれだ?」



何か運命が変わった。そう思った瞬間だった。
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