悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
第5章 5度目の君
信じられなかった。
俺が出来事に手を加えなければ、周囲の人たちは一度目の行動と同じことをしたはずだ。
永遠に続く、終わりのない人生のループ。
しかし、今目の前にいるレベッカは、転んだリリアに新品の靴を差し出し、優しく微笑んだ。
そんなこと、一度も今までなかったのに。
「だ、誰と言われましても…」
思わず口からこぼれ出た俺の本音に、しどろもどろになりながらレベッカが答える。
「ご存知の通り、わたくしはレベッカ・エイブラムです。いや、です、わよ!」
取ってつけたような語尾で、おほほ、と笑っていた。
顔も声も同じだが、仕草やにじみ出る雰囲気に、違和感を感じる。
本当にレベッカか?
何をされていたのか尋ねられたので、ユリウスと部屋に戻る途中だったが、リリアと行ってしまい手持ち無沙汰だと答えると、
「よかったら、わたくしと散歩の続きでもご一緒しませんか?」
思いがけない誘いに、目を見開き固まってしまった。
レベッカから何かを誘われたのは初めてだ。
「俺が、君と……庭で散歩?」
そんな夢のような話があるのか。
彼女はいつも仲の良い女子同士連れ添っていたし、悪い噂が流れた時は俺に迷惑をかけないよういつも一人で行動していた。
人目を避けるように放課後の教室で、秘密話をしていただけだ。
俺の動揺を悪く取ったのか、貴族としての身分差があるのにおこがましいことを言ってすみません、と焦って礼をしてきた。
この機会を逃すわけにはいかない。
「……それは光栄なお誘いだ。では庭へと行こうか。レベッカ・エイブラム嬢」
これほど心が躍ったのはいつ以来なのか、思い出せないほどに。
* * *
さっきうたた寝をしていた、園庭のベンチの近くを二人並んで歩く。
何度も繰り返される始まりの場所という理由で、無意識にそこには近づかないようにしていたのだが、レベッカは上機嫌で庭を歩いている。
学園の生徒なら何も珍しい場所ではないというのに、花壇に咲く花を眺めてはうっとりしている。
俺は、なぜ勝手に運命が変わったのかという考えがぐるぐると頭を巡っており、ろくに世間話もできず、花の種類の説明をしているだけだ。
ただ、手が届く距離に彼女がいて、俺と一緒に歩いてくれている。
追放令を出され、涙しながら、それでも俺の家柄や世間体のために身を引いたレベッカ。
今度は必ず、君を守る。
そしてこのループから抜け出してみせる。
横を見ると、レベッカは俺のことを頭のてっぺんからつま先まで、ジロジロと眺めている。
すると、細い腕を伸ばして俺の前髪を撫でた。
「なっ、なんだ」
動揺して変な声が出てしまった。
「すみません、花びらが前髪についておりましたので」
レベッカの指先には桃色の小さい花びらがついていた。
急な接触に、心臓は高鳴り、顔が紅潮しているのが自分でもわかる。
気が付かれないように顔を背け、大きく息を吸う。
「…なんだか、本当に別人みたいだな、君は」
「そんなに違いますか?」
凛として気高いレベッカとは違い、気さくで無邪気だ。
場を取り持つために軽口を叩くと、
「淑女たるや謙虚に優雅に振る舞わねばですわよね、うふふ」
と笑っていた。
愛らしい姿に、つられて俺も笑みが自然とこぼれる。
「昨日の自分に、明日レベッカと二人で庭園を散歩するぞと言っても、信じないだろう」
それもそうだ。
昨日の君は涙を流して北の地へ追放されていたのだから。
俺が出来事に手を加えなければ、周囲の人たちは一度目の行動と同じことをしたはずだ。
永遠に続く、終わりのない人生のループ。
しかし、今目の前にいるレベッカは、転んだリリアに新品の靴を差し出し、優しく微笑んだ。
そんなこと、一度も今までなかったのに。
「だ、誰と言われましても…」
思わず口からこぼれ出た俺の本音に、しどろもどろになりながらレベッカが答える。
「ご存知の通り、わたくしはレベッカ・エイブラムです。いや、です、わよ!」
取ってつけたような語尾で、おほほ、と笑っていた。
顔も声も同じだが、仕草やにじみ出る雰囲気に、違和感を感じる。
本当にレベッカか?
何をされていたのか尋ねられたので、ユリウスと部屋に戻る途中だったが、リリアと行ってしまい手持ち無沙汰だと答えると、
「よかったら、わたくしと散歩の続きでもご一緒しませんか?」
思いがけない誘いに、目を見開き固まってしまった。
レベッカから何かを誘われたのは初めてだ。
「俺が、君と……庭で散歩?」
そんな夢のような話があるのか。
彼女はいつも仲の良い女子同士連れ添っていたし、悪い噂が流れた時は俺に迷惑をかけないよういつも一人で行動していた。
人目を避けるように放課後の教室で、秘密話をしていただけだ。
俺の動揺を悪く取ったのか、貴族としての身分差があるのにおこがましいことを言ってすみません、と焦って礼をしてきた。
この機会を逃すわけにはいかない。
「……それは光栄なお誘いだ。では庭へと行こうか。レベッカ・エイブラム嬢」
これほど心が躍ったのはいつ以来なのか、思い出せないほどに。
* * *
さっきうたた寝をしていた、園庭のベンチの近くを二人並んで歩く。
何度も繰り返される始まりの場所という理由で、無意識にそこには近づかないようにしていたのだが、レベッカは上機嫌で庭を歩いている。
学園の生徒なら何も珍しい場所ではないというのに、花壇に咲く花を眺めてはうっとりしている。
俺は、なぜ勝手に運命が変わったのかという考えがぐるぐると頭を巡っており、ろくに世間話もできず、花の種類の説明をしているだけだ。
ただ、手が届く距離に彼女がいて、俺と一緒に歩いてくれている。
追放令を出され、涙しながら、それでも俺の家柄や世間体のために身を引いたレベッカ。
今度は必ず、君を守る。
そしてこのループから抜け出してみせる。
横を見ると、レベッカは俺のことを頭のてっぺんからつま先まで、ジロジロと眺めている。
すると、細い腕を伸ばして俺の前髪を撫でた。
「なっ、なんだ」
動揺して変な声が出てしまった。
「すみません、花びらが前髪についておりましたので」
レベッカの指先には桃色の小さい花びらがついていた。
急な接触に、心臓は高鳴り、顔が紅潮しているのが自分でもわかる。
気が付かれないように顔を背け、大きく息を吸う。
「…なんだか、本当に別人みたいだな、君は」
「そんなに違いますか?」
凛として気高いレベッカとは違い、気さくで無邪気だ。
場を取り持つために軽口を叩くと、
「淑女たるや謙虚に優雅に振る舞わねばですわよね、うふふ」
と笑っていた。
愛らしい姿に、つられて俺も笑みが自然とこぼれる。
「昨日の自分に、明日レベッカと二人で庭園を散歩するぞと言っても、信じないだろう」
それもそうだ。
昨日の君は涙を流して北の地へ追放されていたのだから。