悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?〜私はドレスを作って穏やかに過ごしたいだけ〜
ギシ、と足音がしたので顔を上げると、本棚の隙間にレベッカが立ち、こちらを見つめていた。

心臓が跳ね上がる。


「レベッカか、どうしたんだ」


今まさに考えていた人物がそこにいるとは思わなかった俺は、冷静さを取り繕いながら、さっと書いていたノートを閉じた。


「ご機嫌ようクロード様、お勉強の邪魔をしたかしら?」


レベッカの言葉に首を横に振りながら、隣の席を促す。

勉強ではない、この無限ループから抜け出す算段をつけていただけだ、とは言えない。

レベッカはそっと俺の隣の席に座る。

夕焼けのオレンジの光が差し込む、二人だけの図書室。

放課後教室で話していた、一度目と四度目を思い出す。


「俺がいることがよくわかったな」

「先ほどユリウス王子にお聞きしたのですわ」

「ああ……」


じわり、と嫉妬心が胸に滲み出る。

彼女の口から、ユリウスのことを聞きたくはない。レベッカとユリウスが挙げた結婚式の情景を思い出してしまう。

二言三言、試験の話などをしていたら、レベッカが手に持っていたものを俺に差し出してきた。


「これ、この前約束した服を作りました。クロード様に合うパーソナルカラーです」


濃紺のシルク生地のタキシードだ。よく磨かれた金ボタンが光っている。

この前、園庭で採寸していたが本当に作ってくれるとは思わなかった。


「そうか、俺はブルベ冬だからな」


あの時初めて聞いた単語を繰り返すと、レベッカはそうなんです! と嬉しそうに小さく拍手をしていた。

本当に服を作るのが好きなようで、裁縫の難しかった部分などを教えてくれる。


「…ふふ、女性から贈り物をされるなんて、初めてだ」


俺のために時間をかけて作ってくれたというそのタキシードを撫でながら、笑みが漏れる。

服をもらえたことよりも、これを作りながら、俺のことを考えてくれていたのがとても嬉しい。

しかし、同時に思う。

以前レベッカがハンカチにつけてくれた刺繍は、ループをしたら消え、ただの真っ白な無地になってしまった。
やり直せば全てが白紙に戻る。きっとこの服も消えて無くなってしまう。

シルクの袖を撫でながら、もうそんなことにはさせないと奥歯を噛み締める。

今は、思いつく限りの一番良い展開なんだ。


「そのタキシードを着れば、きっとクロード様が舞踏会で一番注目されますよ!」

「……そうかな」


願わくば、この服を着た俺の横には、君がいて欲しい。
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